第五十二話 瓶に名前を書いたら、薬の事故が激減した
「同じ色の瓶が多すぎるんです!」
病院の看護師が困っていた。
リオンは棚を見る。
赤い薬が五種類、青い薬が七種類。
外見だけでは区別がつかない。
「これは危ないね」
ルーシェは紙と筆を持ってきた。
「名前を書けばいいんじゃないですか?」
「それが一番確実かも」
二人は薬の名前、用途、使用量、注意事項、製造日を瓶に貼ることにした。
読めない人のため、用途を示す絵も添える。
「こんな普通の工夫でいいんですか?」
「普通の工夫が一番役立つこともある」
さらに調合記録に番号を付け、どの材料を使ったか追跡できるようにした。
数日後、病院から報告が届いた。
薬の取り違えが大幅に減ったという。
ルーシェは嬉しそうに笑った。
「魔法を使わなくても、人を守れるんですね」
リオンは頷いた。
「安全って、そういう積み重ねだよ」
その日の夕方、王宮から正式な使者が訪れた。
「この仕組みを、王国全土に広めていただきたい」
新しい札を付けた翌朝、看護師が一人、泣きそうな顔でやって来た。
「名前は読めるんです。でも急いでいると、似た名前を見間違えるんです」
棚には『回復促進薬』と『回復補助薬』が並んでいた。
リオンは腕を組んだ。「文字だけでは足りないな」
ルーシェは瓶を並べ替えた。薬の用途ごとに棚を分け、危険な薬は形の違う栓を使う。ラベルには名前だけでなく、用量と使用期限、製造番号を書く。
「でも、こんなに書いたら読みにくいです」
「重要なものを一番大きくしよう」
二人は看護師と一緒に、実際の病棟で試した。薄暗い夜間、手袋をした手、急いでいる状況。机の上では区別できた瓶も、現場では取り違えそうになる。
「ここで失敗に気づけてよかった」
ルーシェは瓶の位置を変えた。
一週間後、看護師が笑顔で報告に来た。
「取り違えかけたとき、栓の形で気づけました」
「事故が起きなかった理由も記録してください」
リオンの言葉に、看護師は驚いた。
「起きなかったことも?」
「そうだ。何が守ってくれたか分かれば、別の病院でも使える」
ルーシェは病院の棚を見回した。
派手な魔法はない。新しい薬もない。
けれど、誰かが間違えそうになったとき、止めてくれる工夫が増えていた。




