第四十七話 痛みを消す薬が、危険を見えなくした
病院へ向かうと、少年が笑顔で走り回っていた。
「元気そうですね」
ルーシェは安心しかけた。
医師は首を振った。
「足の骨にひびが入っています。痛みがないので、安静にしてくれません」
薬布が痛みを抑えすぎていた。
リオンは少年の足を固定し、薬布を剥がした。
「痛みは全部悪いわけじゃない。体からの警告でもある」
「じゃあ痛みを消すのは間違いですか?」
ルーシェが聞いた。
「違うよ。必要な警告は残せばいい」
二人は痛みを完全に消すのではなく、危険な動きをしたときだけ軽い違和感を返す薬布を作った。
試作品を貼った少年は、走ろうとして足を止めた。
「あれ、ちょっと変な感じ」
「そのときは休む合図」
少年は素直に頷いた。
ルーシェは記録に書き込む。
『苦痛を減らすことと、危険を知らせることは両立できる』
帰り道、リオンが言った。
「今日の発想、ルーシェのものだよ」
「えっ?」
「いい薬師になってきたね」
ルーシェはしばらく何も言えなかった。
少年の母親は、笑って走る息子を見て泣きそうになった。
「痛がらなくなったから、治ったと思って……」
「そう思うのは無理もありません」
ルーシェは答えたが、自分も同じ勘違いをしていた。
リオンは薬布の効き目を調べ、痛みを消す成分と炎症を抑える成分を分けて測定した。
「骨はまだ治ってない。警報だけ止めてしまった状態だ」
「じゃあ、痛みを戻すんですか?」
「全部戻す必要はない。ただ、危険を知らせる方法が別に要る」
ルーシェは少年の足に小さな印をつけ、負担がかかると色が変わる包帯を試作した。
最初は歩いただけで真っ赤になった。二度目は反応が遅すぎた。
「どっちも使えません」
「そうだな。失敗した理由を残して、次だ」
三度目の試作品で、少年が跳ねようとした瞬間に印が橙色へ変わった。
「ほら! まだ休んでって言ってる!」
少年は自分の包帯を見て、しぶしぶ椅子に座った。
医師は感心した。「痛みがなくても、自分で気をつけられる」
だがリオンは釘を刺した。
「印は補助だ。治ったかどうかは診察で決める」
帰り道、ルーシェは尋ねた。
「師匠。痛みって、悪いものじゃないんですね」
「苦しみを減らすのは大切だ。でも体の声まで消したら、助けを求められなくなる」
少年はその後、包帯の色を自慢する代わりに、毎日の安静記録をつけるようになった。




