第四十六話 飲まなくても効く薬を作ったら、病院が騒然となった
「子どもが薬を飲んでくれないんです」
若い母親が困り果てていた。
病気の娘は苦い薬を見るだけで泣き出すという。
リオンは少女に尋ねた。
「飲むのが嫌?」
「苦いのが嫌」
「じゃあ飲まなくていい方法を考えよう」
ルーシェが首を傾げる。
「塗り薬ですか?」
「それも一つ。今回はもっと簡単にする」
試作したのは、皮膚に貼る小さな薬布だった。
体温で少しずつ薬が染み出し、急な負担をかけずに作用する。
少女は腕に貼られた布を見て笑った。
「これなら平気!」
翌日、病院から追加注文が届いた。
飲み込む力の弱い老人にも使えると評判になったのだ。
「師匠、百枚の注文です!」
「材料は?」
「二十枚分です!」
「じゃあ作り方を病院に教えよう」
「また技術を公開するんですか!?」
「患者を待たせるよりいい」
薬布は町中に広まった。
リオンが次の研究を始めたころ、病院から一通の手紙が届く。
『貼る薬が効きすぎる患者がいます。
本人は痛みを感じません』
少女は薬布を貼られると、ようやく泣きやんだ。
「飲まなくていいの?」
「うん。でも貼った場所が赤くなったら、すぐ教えて」
ルーシェが説明すると、少女は真剣な顔で頷いた。
翌日、病院から追加注文が届いた。さらに翌日には十倍になった。
「師匠、すごいです! これなら全部の薬を貼るだけにできます!」
「全部は無理だ」
リオンは首を振る。「皮膚から届く成分と、届かない成分がある。体質によっても違う」
ところが病院の一室で、少年が薬布を二枚重ねて使っていた。
「早く治したかったから」
医師が慌てて剥がす。皮膚が赤く腫れ、少年は熱を出していた。
ルーシェは唇を噛んだ。「飲まないから安全だと、私も思い込んでいました」
リオンは薬布の袋を裏返した。
「用量も、使用時間も、目立たない。俺たちの説明不足だ」
二人は薬布の形を変えた。一度使うと印が消え、重ね貼りすると警告色が出る仕組みにする。医師には使用前の確認を徹底してもらった。
母親が娘の手を握り、尋ねた。
「これなら、もう怖がらずに治療できますか?」
「怖いときは、怖いって言っていいんです。使わない方法も一緒に探します」
ルーシェの言葉に、少女は小さく笑った。
リオンは新しい袋の表に一文を書いた。
『飲まなくても効く。だからこそ、使い方を守ること』




