第四十三話 元気な冒険者に、死亡予告が出た
「俺はピンピンしてるぞ!」
冒険者ガランは胸を叩いた。
診断薬は真っ赤。
ルーシェは記録を三度見直した。
「師匠、故障ですか?」
「可能性はある。もう一度調べよう」
再検査も同じ結果だった。
リオンはガランの装備を調べ、腰の魔石袋に気づいた。
「これ、どこで拾った?」
「昨日の遺跡だ。高く売れそうだろ?」
袋を開くと、黒い粉がこぼれた。
薬液はさらに濃い赤に変わった。
「病気じゃない。三日以内に浴びる毒を予測してる」
「俺、まだ毒を浴びてねえぞ?」
「袋から少しずつ漏れてる。今は症状がないだけ」
ガランは顔を青くした。
袋を密閉し、体を検査すると危険は回避できた。
「危なかった……!」
ルーシェは薬瓶を見つめた。
「これ、病気だけじゃなくて、危険な環境も教えてくれるんですね」
「用途が増えたね」
「売れますよ!」
「誤報が出たら困る。まだ売らない」
その日の夕方、工房の外に置いた診断薬が一斉に黄色くなった。
原因は、町全体に近づく何かだった。
ガランは笑い飛ばしたが、検査票を見たときだけ目を伏せた。
「……昨日、胸が妙に重かった。酒のせいだと思ってた」
ルーシェが顔を上げる。「なぜ言わなかったんですか!」
「言ったら、仕事を外される」
翌朝には危険な魔物の討伐がある。前金を受け取った仲間もいた。
リオンは薬液を三つに分け、休息後と軽い運動後の反応を比べた。運動した瓶だけが黒ずむ。
「命を削って動くと、異常が強くなる。俺にはこれ以上は判断できない。病院へ行け」
ガランは渋った。「明日の依頼はどうする」
「仲間に説明する。隠して倒れたら、全員が危ない」
ルーシェが言うと、ガランは初めて怒った。
「簡単に言うな! 俺が働かなきゃ家賃が払えない!」
沈黙が落ちた。ルーシェは自分が正しいことしか考えていなかったと気づいた。
「……すみません。組合の休業補償を調べます。だから診察だけは受けてください」
検査の結果、ガランには循環器の深刻な異常が見つかった。早く治療を始められたが、長い休養が必要だという。
病院の外で、ガランはぼそりと言った。
「死亡予告じゃなかったな」
「はい。生きるための警告でした」
「だったら、そう書いてくれ。俺みたいな馬鹿でも分かるように」
翌日から診断薬の札は変わった。
『死亡予告』ではなく『要精密検査』。
言葉一つで、人は逃げもすれば、助けを求めもする。




