第四十二話 病気になる三日前に知らせるポーション
「未来が分かる薬ですか!?」
ルーシェが目を丸くした。
「未来じゃない。体の小さな変化を早く見つけるだけ」
リオンは少女の血液を一滴採り、試作品に混ぜた。
液体が赤く変わる。
「三日以内に悪化する可能性が高い」
「本当に分かるんですか?」
「まだ予測。確かめないと」
二人は過去の検査記録と照合し、発症前に現れる微細な反応を探した。
ルーシェが何度も数値を読み違え、リオンに訂正される。
「師匠、私の目が先に病気になりそうです」
「睡眠不足だね。休憩」
「今までで一番うれしい言葉です!」
三日後、予測していた悪化の兆候が現れた。
先回りして穏やかな調整薬を使うと、少女は初めて発作を起こさずに朝を迎えた。
セイルは寝台の横で泣いた。
「妹が、朝まで眠れた……」
リオンは小瓶を見つめた。
「これなら治すより前に守れる」
翌日、同じ薬を試した健康な冒険者の瓶が真っ赤に染まった。
本人は元気そのものだった。
試作品は三日先の病気を断言するものではなかった。体内の炎症や魔力循環の変化が、一定の条件を超えたときだけ色が変わる。
最初の実験では、元気な患者の薬液まで赤く染まった。
「師匠、これじゃ町じゅう病人になります」
「いや、俺たちの基準が間違ってる」
リオンは食事、睡眠、運動後の変化を別々に測った。熱い湯を飲んだ直後には反応が強まり、夜勤明けには別の色が混じる。
ルーシェは患者の記録を一枚ずつ重ねた。
「赤だけじゃ判断できません。前日の色と比べるべきです」
「採用」
二人は一度の測定ではなく、三日間の変化を見る方式に変更した。
王宮の医師が腕を組む。「予告が外れたら、患者は薬師を信用しなくなるぞ」
「外れることも説明します。赤くなったから病気だ、とは言わない」
その夜、地下室の少女の検査液に細い赤線が現れた。
まだ熱はない。だが前日の記録にはなかった反応だった。
「先生、私、明日も苦しくなるの?」
ルーシェは膝をつき、少女の目線に合わせた。
「まだ分からない。でも、苦しくなる前に診察できるようになったの」
医師が早めに診察し、体調の変化に合わせて治療計画を見直した。翌日、少女は自分の足で窓辺まで歩いた。
「未来を当てたわけじゃない」
リオンは記録簿を閉じる。
「助ける時間を、少し増やせたんだ」
ルーシェは試作品の瓶に、注意書きを大きく貼った。
『診断ではない。変化の合図。必ず医師の確認を受けること』




