第四十一話 犯人を捕まえたら、患者だった
新しい薬瓶の持ち主は、王宮の若い研究員セイルだった。
兵士に連れられてきた青年は、逃げようともしなかった。
「僕が装置を動かしました」
ルーシェが詰め寄る。
「何百人も苦しんでいたんですよ!」
「知っています」
セイルは袖をまくった。
腕には黒い筋が広がっていた。
「妹の病気を止めるには、あの部屋しかなかったんです」
妹は生まれつき体の組織が崩れる難病を抱えていた。
装置の中にいる間だけ、進行が止まるという。
リオンはしばらく黙っていた。
「妹さんを診せて」
「助けてくれるんですか?」
「診てから決める。助けたいのは本当」
少女は地下室の寝台で眠っていた。
手を握ると驚くほど軽い。
ルーシェは患者の状態を記録しながら、思わず尋ねた。
「師匠なら治せますよね?」
リオンは首を横に振った。
「今までの薬では無理。治すたびに体が壊れる」
「じゃあ……」
「壊れた部分を直すんじゃなくて、壊れる前に教えてくれる薬が必要だ」
セイルの妹は、目を覚ますと兄の袖をつかんだ。
「また、誰かが具合悪くなったの?」
セイルは答えられなかった。妹は知っていたのだ。自分が地下室に入るたび、別の病棟で原因不明の発作が増えることを。
「兄さん、もうあの部屋に入れないで」
「でも、お前の体が……」
「誰かが代わりに痛いのは、嫌」
ルーシェは思わず目を伏せた。責めるべき相手が、目の前で妹の手を握って泣いている。
リオンは検査板を置いた。
「セイル。装置を動かした責任は消えない。だが妹の治療は別だ。罪を償うことと、治療を受ける権利は混ぜるな」
王宮の監督官は反発した。「犯人に研究を続けさせるのか」
「研究資料は全部押収していい。ただ、患者の観察記録だけは医師に引き継いでくれ。俺たちも立ち会う」
装置を使わない状態で少女を観察すると、体温が下がる直前に指先の魔力がわずかに乱れることが分かった。
「症状より先に、合図が出る……」
ルーシェが記録を指した。
「治す薬より、知らせる薬を作れば」
リオンは頷く。「まずは三日先までの変化を見逃さない。それが次の課題だ」
セイルは監督官に手を差し出した。「僕は逃げません。妹のためにしたことを、妹のせいにはしたくない」
扉が閉まる寸前、少女がルーシェに尋ねた。
「次は、普通の部屋で眠れますか?」
「そのために、調べます」
ルーシェは今度こそ、目をそらさずに答えた。




