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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第四話:血のない内戦

翌朝の工房は、妙に静かだった。

倒れていた暗殺者は、すでにいなかった。

代わりに残っていたのは、床の焦げ跡と――壊れた扉だけ。

「……本格的に巻き込まれたね」

リオンは扉を見ながら呟いた。

「ごめんなさい」

ルーシェが小さく頭を下げる。

「謝る相手が違う」

リオンは即答した。

「問題は、あれが“前座”だったってことだ」

ルーシェの表情が固まる。

「……前座?」

「本命は、家の中だろ」

その言葉に、彼女は息を飲んだ。

王都北区・ルーシェ家本邸。

重い扉の向こうで、静かな声が交わされていた。

「生きているそうだね」

「……はい」

「厄介だ」

長いテーブルの上には、家系図が広げられている。

その中央で、ある名前だけが赤く塗られていた。

――ルーシェ。

「毒を失敗した時点で、外部介入が入った可能性が高い」

「つまり、どこかの錬金術師か」

「あるいは“誰かに庇われている”」

空気が冷える。

「……殺せ」

短い命令だった。

「次は確実に仕留めろ」

その頃。

路地裏の工房では、まったく別の戦いが始まっていた。

「整理するぞ」

リオンは机に紙を広げる。

そこには薬の設計図ではなく、図式が描かれていた。

赤=攻撃

青=防御

緑=回復

黒=妨害

「ポーションは“用途別”じゃ弱い」

リオンはペンを走らせる。

「戦場じゃ遅い」

ルーシェは黙って見ていた。

「じゃあ……どうするんですか?」

リオンは迷わず言った。

「体系化する」

「体系……?」

「単体の薬じゃなくて、“組み合わせで戦う”」

彼女は4本の瓶を机に並べる。

「赤は攻撃補助。筋肉と反応速度を一時的に上げる」

一本目。

「青は防御。痛覚を鈍らせて耐久力を上げる」

二本目。

「緑は回復。即効じゃなくて持続回復」

三本目。

「黒は妨害。相手の判断力を落とす」

四本目。

ルーシェが息をのむ。

「それを……全部使うんですか?」

「違う」

リオンは首を振る。

「“必要な順番で使う”」

静かな声だった。

「これが、“戦闘用ポーション体系”だ」

数日後。

ルーシェ家内部で、動きが起きた。

「第三区画、護衛部隊が交代」

「北門の見張りが減らされている」

「……内部で“整理”が始まったね」

リオンは報告を聞きながら淡々と言った。

「整理?」

「暗殺の準備だよ」

ルーシェの顔が青ざめる。

「もう、隠す気がないんですか……?」

「むしろ逆だ」

リオンは瓶を一本手に取る。

「もう“隠す必要がない”と思ってる」

沈黙。

ルーシェは唇を噛む。

「……私は、どうすればいいんですか」

その問いに、リオンは少しだけ考えたあと言った。

「生きる準備をしろ」

「……え?」

「戦い方を変える」

机の上に、四本のポーションが並ぶ。

「逃げるんじゃない。守られるんじゃない」

リオンは静かに続ける。

「自分で生き延びる力を持つ」

ルーシェは瓶を見つめた。

「これが……その力ですか」

「そうだ」

リオンは頷く。

「“安全で効く戦い方”だ」

その夜。

王都北区の空に、わずかな火の気配が走った。

ルーシェ家内部で、初めての衝突が起きる。

まだ血は流れていない。

だが、それは“戦争の形をした内戦”だった。

そしてその中心に――

安全なはずのポーションを手にした少女が立っていた。

路地裏の工房。

リオンは窓の外を見ながら呟く。

「……もう戻れないね」

だが、その声は迷いではなかった。

「なら、やることは一つだ」

机の上の四本の瓶を見下ろす。

「戦える薬を、完成させる」

錬金薬師の戦争は、静かに始まった。


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