↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/100

第三十三話 弟子に店を任せたら、初日から大行列になった

翌朝。

王都の外れにあるリオンの工房では、開店前から妙な音が聞こえていた。

ざわざわ。

がやがや。

「……師匠」

ルーシェが窓の外を見ながら声を震わせた。

「何?」

「外に人がいます」

「店だからね」

「三十人ぐらいいます」

「繁盛してるね」

「全員、帽子をかぶってるんです!」

リオンは帳簿から顔を上げた。

「なるほど。頭皮のお客さんだ」

「なるほど、じゃありません!」

ルーシェは窓を開けた。

工房の前には、帽子をかぶった男性たちが長い列を作っていた。

若い冒険者。

中年の商人。

白髪の老人。

中には立派な馬車で乗りつけた貴族らしき人物までいる。

「本当に髪が生えるのか?」

「昨日、ギルドで治療された男を見たぞ!」

「俺は金貨を払ってもいい!」

「順番を守れ! 俺は夜明け前から並んでいるんだ!」

ルーシェは窓を閉めた。

「師匠。逃げましょう」

「どうして?」

「私、昨日初めて成功したばかりですよ!?」

リオンは棚から一本の小瓶を取り出した。

「だから今日は実践」

「教育方針が厳しすぎます!」

「大丈夫。診断だけは私も手伝う」

「調合は?」

「ルーシェ」

「販売は?」

「ルーシェ」

「お会計は?」

「ルーシェ」

「師匠は何をするんですか!?」

「研究」

「一番楽しいところを持っていかないでください!」

リオンは小さく笑った。

「じゃあ、開店しようか」

扉が開いた瞬間、男たちの視線が一斉に集まった。

「おおっ!」

「錬金薬師様だ!」

「お願いします!」

ルーシェは深呼吸した。

「本日から頭皮の治療を担当します、ルーシェです。よろしくお願いします!」

最初の客は四十代の商人だった。

帽子を脱ぐと、頭頂部が大きく薄くなっていた。

「娘の結婚式が一か月後にあるんです」

「はい」

「せめて娘の隣で、立派な父親に見られたいんです!」

ルーシェは表情を引き締めた。

(これは責任重大です……!)

頭皮を観察し、血流と毛根の状態を調べる。

昨日習った手順を思い出す。

温度。

湿度。

薬液の濃度。

魔力の浸透速度。

「では、こちらを使用します」

慎重に薬液を塗布した。

十秒。

二十秒。

三十秒。

商人の頭頂部に、細かな産毛が現れた。

「おおおっ!」

商人が鏡を見て叫んだ。

「生えてる! 本当に生えてる!」

ルーシェの顔が明るくなった。

「成功です!」

「ありがとうございます! これで娘の結婚式に間に合います!」

商人は何度も頭を下げて帰っていった。

二人目。

三人目。

四人目。

治療は順調だった。

十人目が終わったところで、ルーシェは額の汗を拭った。

「師匠! 十人成功しました!」

「おめでとう」

「私、本当に薬師になれた気がします!」

「じゃあ次は十一人目」

「感動の余韻をください!」

そのとき、工房の外から悲鳴が聞こえた。

「うわああああ!」

ルーシェが飛び出す。

そこには、先ほど治療した商人が立っていた。

頭頂部から、ものすごい勢いで髪が伸びている。

肩まで。

腰まで。

膝まで。

「止まらないんです!」

ルーシェの顔から血の気が引いた。

「え……?」

商人の髪は地面に届き、なお伸び続けていた。

リオンが近づいて観察する。

「ふむ」

「師匠! どうしましょう!」

「成長促進が止まってないね」

「そんな冷静に!」

リオンは一本の透明な小瓶を取り出した。

「毛根活動停止用の調整薬」

商人の頭に数滴落とす。

髪の成長が止まった。

ようやく静かになったところで、商人が恐る恐る尋ねる。

「……これ、元に戻りますか?」

リオンは長い髪を見た。

「切ればいいと思う」

「普通の解決方法ですね!?」

ルーシェが叫んだ。

その日の夕方。

工房の帳簿には、二十七人分の治療記録が追加されていた。

成功二十六件。

過剰成長一件。

ルーシェは机に突っ伏した。

「……疲れました」

「初日にしては上出来」

「本当ですか?」

「うん。大きな事故もなかった」

「髪が床まで伸びましたけど!?」

「命に関わらない」

「判断基準がおかしいです!」

リオンは記録簿を開いた。

「でも、いい発見があった」

「何ですか?」

「薬が効きすぎる人がいる。体質によって反応速度が違うんだ」

ルーシェは顔を上げた。

「それって……」

「一人ひとりに合わせたポーションが必要ってこと」

リオンは新しい研究用紙を取り出した。

そこに書かれた題名は、

『個人適応型ポーション』

ルーシェは目を輝かせた。

「すごいです! それができれば副作用も減らせますね!」

「そうだね」

「じゃあ、明日から研究ですか?」

「その前に」

リオンは窓の外を指さした。

「明日の予約、五十人入ってるよ」

「私の研究時間は!?」

工房の外には、すでに翌日の順番待ちの札を持った男たちが集まり始めていた。

ルーシェの悲鳴が、夕暮れの路地裏に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。