第二十六話:王都からの帰還
王都の門。
背後ではまだ喧騒が続いている。
だが、その中心にいたはずの二人は――もう外にいた。
・静けさ
昨日までの“重さ”が嘘のようだ。
空気が普通だ。
普通すぎて、逆に落ち着かない。
「そうだね」
短い返事。
荷物を軽く持ち直すだけ。
それだけ。
勝ったという実感が、薄い。
ルーシェ
「もっとこう……」
言いかけて止まる。
「もっと騒がしいとか……祝われるとか……あると思ってました」
「王宮でやったでしょ」
「そうですけど!!」
少し声が跳ねる。
そのあとすぐに、静けさが戻る。
・間
風が吹く。
王都の外は静かだ。
鳥の声があるだけ。
平和。
なのに――
だからこそ――違和感が残る。
ルーシェの心は落ち着かない。
・ルーシェ(本音)
「なんか……変です」
「何が?」
リオンは歩きながら聞く。
「終わった感じがしないです」
「そう?」
「だって……」
振り返る。
王都の門が遠ざかっていく。
リオン
少しだけ考える。
そして言う。
「終わったよ」
道中
街道。
馬車も少ない。
静かな帰路。
ルーシェはふと呟く。
「褒美……結局、設備だけでしたね」
「十分でしょ」
「普通は爵位とか領地ですよ!?」
「いらないし」
即答。
ルーシェ
「……ほんとに欲がないんですね」
「欲はあるよ」
リオンは言う。
「でも、それは“邪魔なものがない状態”」
ルーシェ
「……どういう意味ですかそれ」
「思考を止めるものが嫌いってこと」
淡々とした声。
沈黙
少しだけ静かになる。
風の音だけ。
ルーシェ
「じゃあ……今一番やりたいことは?」
何気なく聞いた。
リオン
間。
そして即答。
「検証」
ルーシェ
「やっぱり!!」
思わず叫ぶ。
「少し休むとかないんですか!?」
リオン
「休む理由がない」
あっさり。
ルーシェ
「あります!!人間には!!」
リオン
少しだけ考えてから言う。
「じゃあ、環境が安定してる今が一番休める」
ルーシェ
「理屈が怖いんですよ!!」
小休止
馬車の音。
遠ざかる王都。
もう見えない。
ルーシェ(小声)
「……でも」
「みんなが助かったのは事実なんですよね」
リオン
「そうだね」
即答。
ルーシェ
「……あっさりですね」
リオン
「褒美もらったし」
「次に進める」
ルーシェ
「次って……」
嫌な予感。
リオン
少しだけ空を見上げる。
「環境の安定化ができたから」
「今度は、再現性を取る」
静寂
風。
草。
遠くの鳥。
ルーシェ(諦め)
「……もういいです」
「止めるだけ無駄です」
リオン
「理解が早い」
ルーシェ
「褒めてません!!」
締め
王都は遠くなる。
その中で、
二人だけが“違う方向”を向いている。
終わった者と、
次を見ている者。
同じ帰還なのに、
見ている世界はまるで違う。
そして――
この差は、これからさらに広がっていく。
王宮・玉座の間(同時刻)
王は報告書を見ていた。
側近が慎重に言う。
「リオン殿について、追加報告がございます」
「申せ」
「……発毛剤」
沈黙。
王が一瞬止まる。
「何?」
「いえ……正確には“毛根活性化用錬金薬”です」
「続けよ」
「美容用途の肌再生錬金薬、巨乳化錬金薬……それと」
側近が咳払いする。
「……外見改善用途の調整薬も可能とのことです」
沈黙。
王が書類を置く。
「それは……医療か?」
「分類不能です」
さらに沈黙。
王が小さく息を吐く。
「……あれは本当に“錬金薬師”なのか?」
側近は答えられない。
「……王妃や王女、貴族に知られたら大変なことになるな…」




