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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第二十一話:街に薬を撒くという選択

王都。

空は、あまりにも平和な青だった。

――その下で、人が死にかけているというのに。

担架が走る。

泣き声が上がる。

咳と、吐息と、絶望が街に満ちる。

「……時間がない」

リオンの声は、異様なほど静かだった。

調合室。

机の上に並ぶ瓶は、すべて同じではない。

粘度、反応速度、拡散性――

微妙に違う“調整個体”。

すべてが、“街全体を対象にした薬”。

ルーシェの手が震えている。

「本当に……やるんですか……?」

「やるしかない」

即答。

一切の間もない。

「一人ずつ治すのは、もう間に合わない」

リオンは一本の瓶を持ち上げる。

透明。

だが、わずかに空気が歪む。

「だから、“空気ごと治す”」

その言葉の重さに、ルーシェの喉が鳴る。

「それって……」

「街を丸ごと実験場にするってことだよ」

言い切った。

逃げ場のない現実として。

「……っ」

ルーシェは息を飲む。

「でも安心していい」

リオンの目が、わずかに細くなる。

「“安全型”でやる」

「……安全、なんですよね」

「だから使う」

一歩も引かない声。

「リスクはある。でも――」

視線が瓶に落ちる。

「“制御できるリスク”だ」


・玉座の間

「街に薬を撒くだと?」

王の声が、石壁に叩きつけられる。

重い。

重すぎる。

だがリオンは、一歩も引かない。

「“空気に反応する中和剤”を拡散します」

「毒を直接消すのではなく、性質を崩す」

「無害化するまで“弱らせ続ける”」

ざわ……と空気が揺れる。

重臣たちがざわめく。

「正気か……」

「全域だぞ……」

王が手を上げる。

沈黙。

「副作用は」

「ほぼゼロです」

即答。

「ただし」

一拍。

「即効性はありません」

王の目が細くなる。

「遅い薬に価値はあるのか?」

「あります」

リオンは言い切る。

「“確実に全員へ届く”なら」

沈黙。

王が一歩、踏み出す。

「失敗した場合」

「王都全域に影響が出ます」

ルーシェが息を止める。

だが。

リオンは、止まらない。

「でも、やらなければ――」

「確実に、全員が悪化する」

王の目が、鋭く光る。

「……賭けか」

「違います」

即座に否定。

「“計算です”」

空気が、変わった。

言葉ではなく、

“確信”が場を支配する。

王は、ゆっくりと笑った。

「面白い」

そして――

「許可する」

ルーシェの目が見開かれる。

「ただし」

王の声が落ちる。

「失敗すれば、お前の責任だ」

「当然です」

リオンは一切迷わない。

「成功させるので」


・設置

王都が、戦場になる。

屋上。塔。城壁。

兵士ではなく――

“装置”が並ぶ。

「急げ!!西側まだ空いてる!」

「風向き変わる前に固定しろ!」

怒号が飛ぶ。

ギルドも動員されている。

ディグが装置を担ぎながら笑う。

「……おいおい」

「戦争でも始める気か?」

「もう始まってますよ」

ルーシェが即答する。

「“見えない戦争”が」

ディグの顔が引き締まる。

「……違ぇねぇ」


・夕暮れ

王都が赤く染まる。

終わりの色。

あるいは――

始まりの色。

リオンは最後の装置の前に立つ。

手の中の瓶。

わずかに、光っている。

「……これが核」

ルーシェが隣に来る。

息が少し荒い。

「成功……しますよね」

「するよ」

迷いゼロ。

「失敗する構造にしてない」

その言葉に、ルーシェは苦笑する。

「ほんと、そういうとこですよね……」


・起動

カチ。

装填。

レバー。

「――起動」

シュウウウウ……

白い霧が、空へ昇る。

ゆっくり。

だが確実に。

王都全域へ広がっていく。

人々はまだ気づかない。

だが。

“何か”が変わり始める。

呼吸が、少し楽になる。

咳が、ほんのわずかに止まる。

「……効いてる」

ルーシェが呟く。

だが――

リオンは空を見ている。

「……いや」

その瞬間。

風が、ねじれた。

霧が弾かれる。

押し戻される。

「なに……!?」

空の一部が、“歪む”。

見えない圧力。

「……来たか」

リオンの声が低くなる。

「向こうも“環境操作”……!」

ルーシェが叫ぶ。

霧と霧がぶつかる。

見えない領域で、

削り合いが始まる。

押す。

押し返される。

均衡。

そして――

じわじわと、こちらが押される。

「まずい……!」

ルーシェの顔が青ざめる。

「このままじゃ拡散が……!」

リオンは、笑った。

ほんのわずかに。

「いいね」

「ちゃんと対抗してくる」

ポケットから、もう一本取り出す。

さっきより、明らかに“強い”。

「想定内だ」

瓶が、淡く発光する。

「第二段階」

空気が震える。

「……それ、何ですか」

「“干渉を潰す薬”」

さらっと言う。

ルーシェの理解が一瞬止まる。

「え……?」

「相手の環境操作を“無効化”する」

「そんなこと――」

「できるようにした」

即答。

レバーに手をかける。

「安全型でも」

その目が、鋭く光る。

「“攻められる”って証明する」

ガンッ!!

レバーを叩き下ろす。

第二波、解放。

霧が、変質する。

押し返す。

侵食する。

相手の領域に、食い込む。

「――っ!?」

ルーシェが息を呑む。

空の均衡が、崩れる。

こちらが、押し始める。

見えない戦場で、

“勝ち始める”。

リオンは静かに言う。

「遅いだけの薬じゃない」

「“確実に勝つ薬”だ」

夕焼けの空の下。

王都全体を巻き込んだ戦いは、

ついに――

反撃へと転じた。

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