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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第二話:毒を盛られた貴族

翌日。

朝の工房は、いつもより静かだった。

リオンは机に座り、昨夜の記録を見返していた。

「毒の進行速度、予想より遅かったな……」

安全型ポーションは“ゆっくり効く”。

だが、少女の回復はそれ以上に安定していた。

「……体質か? それとも毒の種類が特殊か?」

コン。

考え込んでいたところで、扉がノックされた。

「どうぞ」

返事をすると、扉が静かに開く。

そこに立っていたのは――昨日の少女だった。

「……また来たのか」

「はい」

短い返事。

だが昨日より、声に力がある。

顔色も少しだけ良くなっていた。

「体調は?」

「楽になりました。……まだ少し残ってますけど」

「やっぱりか」

リオンは頷く。

「完全に抜けるには数日かかる。進行型の毒だからね」

少女は一瞬だけ沈黙し、そして言った。

「……あなたのポーション、すごいです」

「そんな大げさなもんじゃない」

「いいえ」

少女は真っ直ぐにリオンを見る。

「“苦しくならない解毒”なんて、聞いたことありません」

その言葉に、リオンは肩をすくめた。

「普通は一気に消すからな。その代わり、体がびっくりする」

「……びっくり、ですか」

「急な変化は全部リスクになる。だから俺は“ならしながら治す”」

少女は小さく頷いた。

そして、少し迷ったあと――口を開く。

「……実は」

空気が変わった。

「私は、ただの病人じゃありません」

「だろうね」

リオンはあっさり言う。

「毒の種類が“戦場用”じゃない。もっと、上のやつだ」

少女の目が揺れた。

「……わかるんですか」

「ある程度はね」

リオンは瓶を片付けながら続ける。

「市販されてる毒じゃない。貴族か軍用の調合だ」

少女は息を呑んだ。

そして――静かにフードを外した。

現れた顔は、昨日よりもはっきりしていた。

整った顔立ち。

育ちの良さが隠しきれない所作。

「……私は、王都北区のルーシェ家の娘です」

「貴族様か」

リオンは驚きもせず、淡々と返す。

「それで、その貴族様がどうしてこんな路地裏に?」

少女――ルーシェは唇を噛んだ。

「……毒を盛られました」

一瞬、工房の空気が止まる。

「数日前の晩餐会で。飲み物に、混ぜられていたそうです」

「そうです、ってことは」

「気づいたときには意識が朦朧としていて……私は逃げるしかなかった」

リオンは少しだけ目を細めた。

「つまり、今も追われてる可能性があると」

「はい」

短い返事。

だが、その言葉には重さがあった。

「普通の解毒師なら、時間をかけすぎて間に合わない」

ルーシェは続ける。

「でもあなたの薬は……“生き延びるための時間”をくれた」

リオンは黙っていた。

そして小さく息を吐く。

「なるほどね」

「……怒りませんか?」

「何に?」

「貴族が、こんな場所に来たことに」

リオンは鼻で笑った。

「薬に身分は関係ない」

その一言に、ルーシェは一瞬言葉を失った。

リオンは机に手を置く。

「それより問題は別だ」

「……?」

「その毒、誰が盛ったかだ」

ルーシェの表情が曇る。

「心当たりは……あります。でも証拠がありません」

「だろうな。こういうのは大体そうだ」

リオンは静かに瓶を見つめた。

「貴族の毒は、派手じゃない。“じわじわ確実に殺す”」

そして彼女はルーシェを見た。

「で、どうする?」

「……生きたいです」

その答えは迷いがなかった。

「じゃあ決まりだ」

リオンは机から新しいメモを取り出す。

そこに、ひとつ書き加える。

――“貴族毒対応プロトコル”。

「完全に抜くまで面倒見る。代金はあとでいい」

「……よろしいんですか?」

「むしろ好都合だ」

リオンは軽く笑う。

「“安全で効くポーション”の実例としては最高だ」

ルーシェは少しだけ驚いた顔をしたあと、小さく笑った。

「あなた、変わってますね」

「よく言われる」

工房の外で、風が揺れた。

その音が、少しだけ不穏に感じられる。

だがリオンは気にしなかった。

「さて――次は“完全除去”だね」

安全で、確実に。

そして、生き延びるための錬金術が始まる。

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