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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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第一話:安全で効くという異端

王都の外れ。人通りの少ない裏路地に、その工房はあった。

看板にはこう書かれている。

――錬金薬師 リオンの工房。

だが、その扉を開ける者はほとんどいない。

また、その名を知る者もほとんどいない。

「……また在庫だけ増えた」

リオンは帳簿を閉じ、椅子にもたれかかった。

机の上には、整然と並べられたポーション瓶。

赤、青、緑――どれも透明度が高く、不純物のない美しい液体だ。

見た目だけなら一級品。

品質だけなら、王宮納入品にすら劣らない。

だが、売れない。

「効き目が“優しすぎる”んだよね」

昨日来た冒険者の言葉が、頭をよぎる。

『こんなもん、戦闘じゃ使えねぇよ。もっとガツンと回復するやつ持ってこい』

この世界のポーションには、はっきりとした“二系統”がある。

ひとつは攻撃・戦闘用ポーション。

もうひとつは治癒・補助用ポーション。

攻撃用ポーションは設計思想が単純だ。

「効きすぎる」ことを前提に作られている。

毒は即死レベルまで濃縮され、

麻痺は神経を焼き切るほど強く、

爆発薬は骨ごと吹き飛ばす。

――副作用?

そんなものは考慮されない。

戦場では「生きるか死ぬか」が全てであり、

後遺症や安全性は問題にならないからだ。

その代わり、効果は絶大。

一瞬で戦況をひっくり返す“切り札”になる。

しかし、その攻撃ポーションは危険すぎるため、市場にはほとんど流通させていない。

犯罪に使用される恐れもある。

盗賊などに渡ったら大変だ。

だから国家や一部の傭兵組織に多少販売しているに過ぎなかった。

一般の冒険者が使うのは、主に治癒・補助ポーション。

だがこちらは“安全性”と“即効性”の両立を求められるため、

どうしても中途半端になる。

リオンのポーションは“穏やかに効く”。

傷はちゃんと塞がる。

毒も確実に抜ける。

だが、その速度は緩やかだ。

「……でも、それでいいはずなんだ」

リオンは一つの回復ポーションを手に取る。

「急激な回復は、身体に負担がかかる。だから反動が出る」

一般的な高級ポーションは、瞬時に傷を塞ぐ代わりに強い倦怠感や発熱を引き起こす。

場合によっては、内臓にダメージが残ることすらある。

「……回復ってのは、借金じゃない」

リオンは静かに呟いた。

「ちゃんと返済できる形じゃないと意味がない」

「だったら最初から、安全に効く方がいい」

それがリオンの信念だった。

――だが、その価値を理解する者はいない。

コン、と小さな音がした。

控えめなノック音。

「……?」

扉が、遠慮がちに叩かれる。

「……はい?」

リオンが顔を上げると、ゆっくりと扉が開いた。

入ってきたのは、小柄な少女だった。

フードを深くかぶり、顔はよく見えない。

だが、立ち方だけで分かる――異様に警戒している。

「……ポーション、ありますか」

か細い声。

「ああ、あるよ。どれが欲しい?」

少女は一瞬だけ迷い、言った。

「……安全なやつを」

「――へぇ」

リオンは少しだけ目を見開いた。

この店で、その言葉を聞くのは初めてだった。

「うちは全部、安全仕様だよ。副作用はほぼゼロ」

「……それ、効きますか?」

「ちゃんと効く。ただし、ゆっくりね」

「……本当に?」

少女の声は疑っていた。

「本当に効きますか」

「効く。ただ、急には効かない」

沈黙。

少女は小さく頷いた。

「……それでいいです」

リオンは棚から一本の瓶を取り出す。

淡い青色の液体。

「回復ポーション。傷や内部損傷にも効く」

だが――少女は受け取らなかった。

「……毒にも効きますか」

「毒?」

リオンは眉をひそめる。

「種類によるな。どんな毒だ?」

「……わかりません」

その一言で、確信した。

(隠してるな)

リオンは静かに少女を観察する。

呼吸が浅い。

肌が青白い。

指先がわずかに痙攣している。

そして何より――目が、焦点を少し外している。

「……ちょっと手、出せ」

「大丈夫です」

「大丈夫なやつは来店しない」

半ば強引に手首を取る。

――冷たい。

脈は乱れ、弱い。

「……進行性の毒だね」

少女の肩がわずかに揺れた。

「普通の解毒ポーションだと、強すぎて危ない」

「……」

「でも安心しろ。“安全で効く”やつを作る」

リオンは振り返り、素早く材料を揃える。

解毒草。

中和鉱石。

そして――緩衝液。

「普通の解毒は“強く一気に消す”」

リオンは手を動かしながら続ける。

「でもそれは、体ごと巻き込む」

「それだと体に負担がかかる」

彼女は液体をゆっくり混ぜる。

「だから、段階的に分解する」

コト、コト、と静かな反応音。

液体が淡い紫色に変わる。

「毒を“壊す”んじゃなくて、“弱らせる”」

最後に一滴、透明な液体を落とす。

ふわり、と優しい光が広がった。

「……完成だ」

リオンは瓶を差し出す。

「飲め」

少女はしばらくそれを見つめ――やがて、決意したように受け取る。

そして、一気に飲み干した。

数秒。

沈黙。

だが次の瞬間――

「……あれ」

少女の声が、わずかに変わった。

「……苦しくない」

呼吸が整っていく。

震えも止まる。

「効いてる。ただし、完全に抜けるまで時間はかかる」

「……すごい」

小さな呟き。

それは、心からの言葉だった。

「いくらですか」

「今回はタダでいい」

「え?」

「データ取りだ。安全で効くってのを証明したいからね」

少女は深く頭を下げた。

「……ありがとうございます」

そのまま店を出ていく。

静かに扉が閉まる。

リオンはしばらくその方向を見つめていた。

「……“安全で効く”を選んだか」

それだけで十分だった。

この世界にも、求めている人間はいる。

なら――

「広げる価値はある」

リオンは新しい帳簿を開いた。

タイトルを書く。

――安全型ポーション開発記録。

「強さじゃない。“確実さ”で勝つ」

その小さな工房から、新しい常識が生まれようとしていた。

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