第十八話:王都――静かすぎる街
翌朝。
王都へ向かう馬車は、驚くほど静かだった。
「……思ったより、普通ですね」
ルーシェがぽつりと呟く。
石畳の整った道。高い城壁。整然と並ぶ建物。
どれも“理想の都市”そのものだった。
だが――
「静かすぎる」
リオンが短く言う。
「え?」
「人がいるのに、音が少ない」
確かに。
人通りはある。商人もいる。衛兵もいる。
なのに――妙に活気がない。
まるで、“抑え込まれている”ような空気。
「……気のせいじゃないですか?」
ルーシェはそう言ったが、自分でも違和感は感じていた。
馬車が門を通る。
衛兵の目が、鋭く二人を追った。
「通行証」
無機質な声。
使者が紙を差し出す。
確認は一瞬。
だがその視線は、リオンから外れなかった。
「……どうぞ」
門が開く。
王都の内側へ。
その瞬間――
空気が変わった。
「……っ」
ルーシェが思わず息を止める。
「な、なんですかこれ……」
「濃いね」
リオンは淡々としている。
「毒の“気配”がある」
「え……?」
見えない。
匂いもない。
だが確かに、“何か”が漂っている。
「……慢性的に吸ってる状態だ」
「そんな……」
ルーシェの顔が青くなる。
「普通の人は気づかないレベル」
リオンは周囲を見渡す。
「でも、確実に蓄積するタイプ」
街の人々の顔を観察する。
誰もが“少しだけ”疲れている。
誰もが“ほんの少しだけ”覇気がない。
「……これが原因?」
「たぶんね」
使者が口を開く。
「王都では最近、“原因不明の体調不良”が増えています」
「医師も薬師も、原因を特定できない」
「……なるほど」
リオンは小さく頷く。
「“即効性じゃない毒”だから見逃されてる」
「え?」
「普通の毒は強い。だからすぐ分かる」
「でもこれは違う」
「弱い。ゆっくり効く。だから気づかない」
ルーシェはぞっとした。
「そんなの……」
「一番厄介なタイプだよ」
――――
やがて、王宮に到着する。
巨大な門。
重厚な建築。
だがここでも、同じ違和感。
「……やっぱり濃い」
リオンが呟く。
むしろ、外よりも。
「中の方が強い……?」
「源が近いんだろうね」
案内され、広間へ。
そこには――
一人の男がいた。
壮年。
威厳ある佇まい。
そして、鋭い目。
男――王は、ゆっくりと視線を向ける。
「来たか」
低い声。
「例の錬金薬師だな」
リオンを見る。
値踏みするような目。
「……随分と若い」
「年齢で効き目は変わらないよ」
即答。
だが王は怒らない。
むしろ――
わずかに口元が動いた。
「……面白い」
「では聞こう」
「この王都を蝕む“何か”」
「お前に解けるか」
沈黙。
リオンは一歩前に出る。
「解けるよ」
迷いはない。
「ただし」
その目が、少しだけ冷たくなる。
「“普通のやり方”じゃ無理だ」
王の目が細まる。
「ほう」
「どうする」
リオンは、静かに言った。
「環境ごと、変える」
その言葉に――
広間の空気が、さらに張り詰めた。
ルーシェは理解する。
これはもう、“個人の治療”じゃない。
王都そのものを相手にする戦いだ。
そして――
背後で、微かに。
“何か”が動いた気がした。
見えない毒。
見えない敵。
だが確実に存在する“意志”。
静かに。
だが確実に――
危機は、王都のすぐそこまで来ていた。




