第十七話:美容という名の戦場
ギルド。
その日は――地獄だった。
「肌を綺麗にしてください!!」
「シワを消せるか!?」
「筋肉もつけられるか!?」
「いや細くなりたい!!」
カオス。
完全にカオス。
ルーシェは受付で固まっていた。
「……なんですかこれ」
昨日とは違う。
“ハゲ”だけじゃない。
老若男女、全方向からの欲望。
リオンは一言。
「増えたね」
他人事。
ディグは完全に死んだ目だった。
「制御不能です……」
「でしょ」
軽い返事。
――――
数時間後。
「次の人」
ルーシェが機械的に呼ぶ。
もう慣れ始めているのが怖い。
「肌荒れを……!」
若い女性が座る。
リオンは薬を取り出す。
「これ塗る」
「副作用あるけど」
「大丈夫です!」
即答。
塗布。
数秒後。
「……え?」
肌が変わる。
明らかに滑らかに。
「すごい……!」
だが次の瞬間。
「……え、ちょっと待って、なんかツヤが――」
ツヤが増す。
増しすぎる。
「てか光ってません!?」
ぴかぴか。
完全に反射している。
ルーシェが吹き出しそうになる。
「副作用だね」
リオンは冷静。
「そのうち落ち着く」
「ほんとですか!?」
――――
別の依頼。
「筋肉を……!」
細身の男。
リオンは頷く。
「可能」
薬を渡す。
数分後。
「……おお!」
筋肉がつく。
だが――
「……あれ?」
止まらない。
「ちょ、ちょっと待って!?」
膨張。
「服が……!」
バリッ。
「副作用あるって言ったよね」
冷静。
――――
さらに別。
「痩せたいです……!」
女性。
リオンはまた薬を渡す。
「これ飲む」
「はい!」
数分後。
「軽い……!」
体が軽くなる。
だが――
「……え?」
スカートが脱げる。
「痩せたら当然そうなるよ」
――――
カウンター奥。
受付嬢が戻ってくる。
「……どうですか?」
ルーシェが聞く。
受付嬢は、少し照れながら――
「……安定しました」
確かに、自然なバランスに落ち着いている。
「すごいですね……」
ルーシェが受付嬢のふくよかになった胸元に感心する。
受付嬢は小さく笑う。
「自信がつきました。」
――――
夕方。
ギルドは疲労の海だった。
「……もう無理」
ルーシェが机に突っ伏す。
「今日何人やったんですか……」
「数えてない」
リオンは平然としている。
ディグも限界だった。
「……明日から制限を強化します」
「そうして」
その時――
扉が開く。
静寂。
一瞬で空気が変わる。
入ってきたのは、昨日の男。
黒い外套。
王都の使者。
誰もが言葉を止める。
「……返答を聞こう」
短い言葉。
リオンは、少しだけ間を置いて――
「行くよ」
あっさりと答えた。
ルーシェが顔を上げる。
「……決めたんですか」
「面白そうだし」
軽い理由。
だが、その目は少しだけ鋭い。
使者は頷く。
「では、準備を」
「明朝、出発する」
ギルドの空気が変わる。
ざわめき。
「王都って……」
「マジかよ……」
ルーシェはリオンを見る。
「……私も行きます」
迷いはなかった。
リオンは頷く。
「助手だしね」
当然のように。
その一言に、ルーシェは少しだけ笑う。
ディグが静かに言う。
「……お気をつけて」
その声には、少しだけ重みがあった。
外は夕焼け。
ギルドの喧騒が、少しずつ遠のく。
美容という名の戦場は終わった。
そして――
次は、もっと大きな舞台。
王都。
静かに、物語が動き出す。




