第十四話:証明と副作用
ギルド前。
早朝。
重たい空気が流れていた。
「対象は森の奥だ」
ディグが地図を広げる。
「複数人が同時に倒れている。症状は昨日と類似」
「……また混合毒か」
バルドが眉をひそめる。
その視線が、リオンに向く。
「今日は、我々も同行する」
「好きにすれば」
リオンは興味なさそうに答える。
ルーシェは少し緊張していた。
(見られてる……完全に)
背後には薬師たち。
完全に“査定”。
逃げ場はない。
「行くよ」
リオンが歩き出す。
その背中を、全員が追った。
――――
森の奥。
倒れている冒険者が三人。
呼吸は浅い。
顔色は最悪。
「……遅い」
バルドが呟く。
「通常なら、もう――」
「まだ間に合うよ」
リオンが割り込む。
迷いがない。
「助手、準備」
「はい」
ルーシェがすぐに動く。
手は震えていない。
「症状確認」
「はい。脈拍低下、軽度痙攣……」
「前回と同系統?」
「……いえ、少し違います」
一瞬の沈黙。
薬師たちがざわつく。
「ほう?」
バルドが興味を示す。
ルーシェは続ける。
「神経毒が強めで、血液阻害は弱いです」
「その代わり、呼吸抑制が強い……です」
リオンが頷く。
「正解」
短い一言。
それだけで空気が変わる。
「じゃあ手順変える」
「はい」
ルーシェは即座に動く。
「まず呼吸補助優先」
薬を調合する。
量を調整。
投入。
「……ほう」
後ろで誰かが呟く。
明らかに昨日より精度が上がっている。
二本目。
三本目。
順番通りに。
迷いがない。
バルドの表情が変わる。
(……速い)
そして――
「調整」
最後の一手。
静かに投入。
沈黙。
数秒。
「……っ、げほっ!」
一人が咳き込む。
「戻ったぞ!」
「呼吸が安定してる!」
連鎖するように、他の二人も回復していく。
ざわめきが爆発する。
「嘘だろ……」
「こんな早く……?」
薬師たちが言葉を失う。
バルドも、無言だった。
リオンは軽く肩を回す。
「はい、終了」
あまりにもあっさり。
その時――
後ろから、小さな声。
「あ、あの……」
振り向くと、薬師の一人。
少し年上の男。
そして――
頭頂部が、見事に輝いていた。
ルーシェが一瞬だけ視線を逸らす。
「なに?」
リオンが普通に聞く。
男は少しだけ躊躇ってから――
「その……毒を残して調整する、という技術……」
「応用は、可能だろうか」
「何に?」
リオンは首をかしげる。
男は意を決して言った。
「……発毛に」
一瞬。
沈黙。
「……は?」
ルーシェが思わず声を漏らす。
周囲もざわつく。
バルドが顔を覆う。
「お前は何を言っている……!」
だが男は真剣だった。
「いや!理論上は可能では!?」
「刺激を調整すれば毛根の活性化が――」
リオンは少しだけ考える。
「……できると思うよ」
あっさり。
全員が固まる。
「え」
「ただし」
リオンが続ける。
「副作用あるけど」
男は食い気味に頷く。
「構わない!」
即答。
覚悟が違う。
リオンは適当に薬を取り出す。
「じゃあこれ」
「薄めて頭皮に塗る」
「量間違えるとやばいから気をつけて」
男は震える手で受け取る。
「ありがとう……!」
その目は輝いていた。
バルドが呆然とする。
「お前は何をしているんだ……」
リオンは首をかしげる。
「依頼じゃないの?」
「違う!」
全力否定。
そのやり取りに、周囲が少しだけ笑う。
張り詰めていた空気が、わずかに緩む。
そして――
バルドがゆっくりとリオンを見る。
「……認めよう」
静かな声。
全員が息を呑む。
「君の技術は、本物だ」
はっきりと。
「我々のやり方では、あの速度と安定は出せない」
リオンは軽く頷く。
「そうだね」
あっさり。
その態度に、バルドは苦笑する。
「……ただし」
少しだけ目を細める。
「そのやり方が広まれば、医療の常識が変わる」
「それでもやるのか?」
リオンは即答する。
「いいんじゃない?」
「助かる人増えるし」
シンプルな答え。
だが、それがすべてだった。
バルドは何も言えなくなる。
ルーシェはその背中を見る。
(この人……)
少しだけ誇らしく思った。
その頃――
「……あれ?」
さっきの薬師が声を上げる。
頭頂部を触る。
「なんか……熱い……?」
全員の視線が集まる。
次の瞬間――
「生えてる!?」
うっすらと、産毛。
そして、みるみるうちに――
「うおおおおお!?」
爆発的に伸びる髪。
だが。
「ちょっ、待っ、止まらな――」
髪が、止まらない。
「副作用言ったよね」
リオンが淡々と言う。
森に、悲鳴と笑い声が響いた。
その日。
ギルドに、新しい噂が追加された。
――“どんな毒でも治す錬金薬師”
そして。
――“ついでにハゲも治す(ただし危険)”
リオン
「禿げだろうがEDだろうが治してあげるよ」




