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ポーション作りの錬金薬師  作者: レモンティー


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12/32

第十二話:正式依頼

翌日。

工房の扉が、控えめに叩かれた。

「……開いてるよ」

リオンは手元の作業を止めずに答える。

扉が開く。

入ってきたのは、昨日の鎧の男――ではなかった。

落ち着いた服装の男。

年の頃は三十代後半。

無駄のない動き。

一目でわかる。

「……ギルドの人?」

「ええ」

男は軽く頭を下げた。

「冒険者ギルド、管理担当のディグです」

視線がリオンを測るように動く。

そして、隣のルーシェにも一瞬向けられた。

「昨日は助かりました」

「別に」

リオンは淡々と答える。

「依頼だったし」

「ええ。その“依頼”の件で来ました」

ディグは一歩踏み込む。

「正式に、継続契約をお願いしたい」

ルーシェが小さく息を飲む。

リオンは手を止めた。

「内容は?」

「主に三つ」

指を立てる。

「一つ。毒・状態異常の対応」

「二つ。緊急時の優先出動」

「三つ。専属に近い形での技術提供」

少し間を置く。

「報酬は、通常の三倍を提示します」

ルーシェが目を見開く。

だがリオンは――

「やらない」

即答だった。

空気が止まる。

ディグも一瞬だけ言葉を失う。

「……理由を聞いても?」

「縛られるの嫌い」

それだけ。

あまりにもシンプル。

ルーシェが思わず横を見る。

(え、断るの!?)

ディグは小さく息を吐いた。

「……予想はしていました」

少しだけ苦笑する。

「では条件を調整しましょう」

すぐに切り替える。

「専属ではなく、優先契約」

「呼び出しは応相談」

「あなたの判断で断って構いません」

リオンは少しだけ考える。

「報酬は?」

「個別交渉。ただし最低保証あり」

「材料費は?」

「ギルド負担」

「失敗した場合は?」

「責任は問いません」

即答。

準備してきている。

リオンは少しだけ興味を持った。

「……なんでそこまで?」

ディグは一瞬だけ視線を逸らし――

そして正面に戻す。

「昨日、確認しました」

「あの処置は、他では再現できません」

はっきりと言い切る。

「正直に言います」

「あなたを、逃したくない」

静かな言葉。

だが重い。

工房の空気が少し変わる。

リオンは、ほんの少しだけ笑った。

「正直でいいね」

そして――

「いいよ、その条件なら」

ルーシェが息を飲む。

ディグの表情が、わずかに緩む。

「ありがとうございます」

深く頭を下げる。

「契約は後日、書面で」

「ん」

軽い返事。

ディグは視線をルーシェに向ける。

「……助手の方も、同行されますか?」

一瞬の沈黙。

ルーシェは迷わなかった。

「はい」

はっきりと。

昨日とは違う声。

ディグは小さく頷く。

「では、助手としても登録しておきます」

「正式な依頼には、補助として報酬も発生します」

ルーシェの目が大きくなる。

「え……?」

リオンが横から口を挟む。

「当然でしょ」

「働いてるんだから」

あっさりと言う。

ルーシェは少しだけ俯き――

そして、小さく笑った。

「……はい」

ディグは書類を取り出す。

「では、仮登録だけ済ませておきましょう」

机の上に広げる。

名前。

役割。

契約区分。

ペンを差し出す。

リオンは迷わず書く。

その隣で、ルーシェは少しだけ手を止めた。

(私が……ギルドに……)

だが、すぐに――

名前を書く。

インクが紙に染み込む。

その瞬間。

ただの「手伝い」ではなくなった。

ディグは書類を回収する。

「これで本日より、依頼を正式に出せます」

タイミングを見計らったように――

外が少し騒がしくなる。

足音。

声。

「……早速来たね」

リオンが呟く。

ディグが苦笑する。

「ええ。お察しの通りです」

扉の向こう。

「解毒だ!誰かいないのか!」

切迫した声。

リオンは軽く肩を回す。

「じゃあ、仕事」

そしてルーシェを見る。

「助手、準備」

ルーシェは力強く頷いた。

「はい!」

昨日とは違う。

これは――

“正式な仕事”だ。

工房の扉が開く。

新しい立場での、最初の一歩が始まった。


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