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06.ようやくこの国のことが分かってきたようです

 二歳になった。使用人たちに本を読んでもらうようになって一年。

 おかげで、この国の言葉も少しずつ分かるようになってきた。


 この前は二歳の誕生日があり、教会でよくわからない儀式が開かれた。

 貴族の子は、教会でお祝いするのかな?


 屋敷内の礼拝堂ではなく、屋敷から徒歩十分ほどにある、屋敷の外にある教会だった。

 教会へ向かう途中、騎士たちが訓練している建物が見えた。

 その向こうには馬が放牧されている。

 さらに遠くには煙の上がる小さな村があった。住人たちが住んでいるらしい。


 屋敷は外周で守られていた。外周の外には、大きな川が流れている。

 どうやらここの土地は、水が豊富らしい。川のそばには水車と粉ひき所がある。

 川を渡る石橋には苔が生え、荷車がゆっくりと行き交っていた。

 パンを焼く香りが風に乗って流れてくる。


 使用人たちの話や、本で読んだことを思い返す。

 私がいるこの国は――ルミナリア皇国というらしい。

 皇帝が治めていて、皇帝は光の神の末裔だと言われている。

 教会には教皇もいるらしい。


 なるほど。通りで、この世界は宗教色が強かったのか。



「ルシア様だ…!」


 教会へ向かう途中、声が聞こえた。私と同じくらいの年の子供がいた。

 服は私よりずっと質素だったけど、でも楽しそうに走り回っている。

 同じ子供なのに、暮らしは全然違うんだな。


 そんなことを考えていると、道行く人々の視線がこちらに集まっていることに気づいた。


「本当に黒髪黒目だ……」

「本当に"Aurea"なのか……」

「いや、災いの子かもしれん……」


 領民たちの好奇な目が気になった。


「"Aurea"?わざわい?」

 不思議そうに姉に問いかけると、姉は困ったように説明してくれた。


「昔ね、たくさんの人が同じsiemi(夢)を見たんだって」

「siemi?」

「夜に寝ると見るやつよ」

 夢のことか。


「黒髪黒目の女の子が、六つの光を束ねて、世界を救う夢」

「へんなの」

「教会がそれをoracle(神託)だって認定して以来、黒髪黒目の女の子は、神からの使い、または生まれ変わりの"Aurea"じゃないかって言われているの」


 Aurea、Oracle……。まだよく分からない単語もある。

 ただ、Aureaは神様に選ばれた特別な子、みたいな意味だろうか。

 私の感覚で言うなら、『神子みこ』だ。


「黒髪?」

 私は自分の髪を引っ張った。

「そう、この国では珍しいの」

 セシリアさんは頷いた。


「ただ、昔はね、黒髪黒目は、umbra(闇)の力を持つって言われていたの」

「umbra?」

「黒くて怖い力だって思われていたのよ」


 この世界には魔法があるから、闇魔法や黒魔術のようなものだろうか。

 領民たちが私を見る目に、どこか怯えたような色が混じっていた理由が、少しだけ分かった気がした。



「でも大丈夫よ。ルシアが何者でも、私たちの可愛い妹なんだから!」

 そういって、姉のセシリアさんは私を抱きしめた。


 Aurea。まだ正確な意味は分からない。

 それでも私の中では、いつの間にか『神子』という言葉に置き換わり始めていた。


 前世の記憶があるせいか、私はまだ、この世界の家族を本当の家族だと思えていない。


 それでも、セシリアさんの腕は温かかった。

 その温もりだけは、不思議と嫌ではなかった。


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