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05.そろそろ言葉が分かってきたようです


 最近、ようやく立って歩けるようになった。おそらく一歳が近いのだろう。

 離乳食が始まった。


「Dunna ルシア, il di es clar oz, 食事 en il 外.

 (ルシア様、本日は天気に恵まれておりますので、お庭でお食事にしましょうか)」


 よく聞く単語はなんとなく意味が分かるようになってきた。

 今日は外で食べるのかな?


 絵本の読み聞かせでもあれば、もっと語学力が向上しそうだけど、この世界にはそういう文化がないようだ。残念だ。そもそも本が高価なのか、それとも絵本が存在しないのか。


「あーい」

 私より数か月早く生まれた乳兄妹は、最近になって一語ずつ話すようになった。

 だから私も真似してみる。


 自分で歩こうとしたけれど、まだ危ないと思われているのか、使用人に抱きかかえられて庭園まで運ばれてしまった。


 今日は雲ひとつない青空だった。

 庭師が丁寧に管理している庭園は、綺麗な花々が咲き誇っている。

 中には、前世で見たことのある花も混じっていた。


 庭園には、長方形の白い机と椅子が置かれている。椅子には、すでに姉と兄が着席していた。

 奥には、陽光を反射して輝く広い湖が見えた。白い鳥が羽を休めている。


「Mintgatant es era 良い 食事 外.(たまには、外での食事も良いものね)」

 そう発したのは、姉であるセシリアさんだ。隣には、兄のアストさんが座っていた。


 離乳食が始まってからは、家族と一緒に食事を取るようになった。

 ただ、父は屋敷を開けていることが多く、母も体調がすぐれないらしい。

 だから食卓にいるのは、姉と兄と私の三人が多かった。


 使用人たちが、次々と食事を運んできた。

 私の目の前にはスープが、姉と兄の前には、白いパンとお肉とスープ、チーズが出された。


 そして皆で目を閉じ、胸の前で手をあわせた。


「Mater Luxia, receva nossa gratia.(光の母よ、我らの感謝をお受けください。)

 Per tia lux creschan ils camps, prosperan las chasas e vivan ils umans.(あなたの光によって畑は実り、家は栄え、人は生きます。)

 Benedia questa maisa.(この食卓を祝福してください。)

 Luxia cun nus.(光は我らとともに。)」


 ここは相変わらず何を言っているかわからないが、私も見よう見まねであわせる。


 そうして具だくさんのスープを口に運んだ。

 まだうまく手を動かすことができないが、なるべく自分の手で食べるようにしている。

 口元を汚したら、そばに控えている使用人がサッと布で拭ってくれる。


 目の前では、兄が楽しそうに姉とお喋りをしている。

 まだうまく聞き取れないから、何を話しているかは分からない。


 兄は姉が大好きなようで、姉がいるときはいつも機嫌が良かった。私といる時よりも、ずっと楽しそうに見える。

 まぁ子供なんてそんなものだろう。年下の子の面倒を見るようなことはしないだろうし、甘やかしてくれる年上が好きだよね。


「Dunna ルシア, どこ vulais Vus 行く?(ルシア様、どちらへ行かれるのですか?)」

「うー」

 歩けるようになったので、食後は自分の足で屋敷の中を散策してみることにした。


 いままでできなかったから嬉しい。

 ちなみにいままでの私の遊び相手は、乳兄妹だった。

 遊びといっても、庭園で土遊びしたり、ボールを転がしたり、室内で、太鼓や人形などのおもちゃで遊ぶくらいだが。暇だ。たまにはテレビゲームでもしたい気分になる。


「おてあらい」

 散策中にトイレに行きたくなり、使用人に告げると、トイレへと案内された。

 今までは布おむつに垂れ流しか、もしくは使用人に小さな木桶を持ってきてもらってソコにしていた。

 歩けるようになったので、ようやく自分でトイレができる。


 排泄したあとは、使用人が小さな水路の栓を開き、水で流してくれた。

 ――水洗式だった。

 よかった。ぼっとん式だったらどうしようかと思っていた。


 

 手を洗い終えると、再び屋敷の中を歩き始めた。


 そこで、本が並ぶ部屋を見つけた。

 図書室だろうか。壁一面に並んだ本棚は、天井まで届いていた。


 本棚には革表紙の本がずらりと並び、巻物も整然と収められていた。

 思わず足を止め、天井まで届く本棚を見上げる。


 前世の本とは全然違う。まるで映画の中の世界だ。

 古い紙と革の香りが部屋いっぱいに漂っていた。


 手近にあった一冊へ手を伸ばし、両手で抱えるように開いてみる。

 固い紙には、おそらく手書きで何らかの言葉が書かれている。


「ほん、よむ!」


 使用人にそう言うと、戸惑いながらも本を読み上げてくれた。

 内容はまったく分からなかった。

 それでも。言葉が少しずつ形を持って耳に残る。


 この日から、毎日のように本を読んでほしいとせがむ子供になった。


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