04.まさか魔法があるようです
――おそらく、生後二週間ほどが経過した。
今日は久しぶりに、寝室の外に連れ出された。
廊下では、石造りの窓から柔らかな風がやってきて、私の頬を撫でてくる。気持ちが良い。
普段いる部屋には硝子窓があるけど、廊下には硝子窓はないみたいだ。
この時代の硝子は高価なのだろうか。硝子といっても現代ほど透き通ったものではないけど。
使用人に抱き上げられながら廊下を進む。
高い天井には木の梁が走り、壁には大きな風景画や見たことのない紋章が飾られていた。
石造りの窓の向こうには、朝露に濡れた芝生と、色とりどりの花壇が広がっている。
遠くでは噴水が陽光を受け、小さくきらめいていた。
やがて、大きな扉が開かれた。
部屋の床は白い石で敷き詰められ、壁際には大小さまざまな木桶や白い布が整然と並べられている。石鹸を思わせる清潔な香りが漂っていた。
もしかして、ここ、お風呂では…!?
使用人の1人が空っぽの木桶に手をかざした。
水差しでも持ってくるのだろうか。そう思った次の瞬間だった。
掌の下の空間が揺らいだ。小さな雫がいくつも現れ、それらが吸い寄せられるように集まり、一筋の水流となって木桶へ流れ込んでいく。
あっという間に木桶に水が溜まった。
なに、今の。私は瞬きを繰り返した。
……なにこれ。ありえない!
もしかして、魔法……?この世界には魔法があるの?
さらに、使用人が手を水の中に入れた。すると、水面がゆらりと揺れる。
やがて、木桶から湯気が立ちのぼり始めた。
――お湯になった!
胸が高鳴る。ここは、魔法のある異世界なのかもしれない。
日本では絶対にありえない。改めて、違う世界に来たのだと実感する。
それにしても、あの使用人だけが特別なのだろうか。
それとも、この世界では誰でも魔法を使えるのだろうか。
――私なんかでも魔法を使えたりするのだろうか?
使用人に仰向けの体を洗われながら、私は腕を少し突き上げて、水を思い浮かべてみた。
ゆらゆらと漂う水……。透明な水。光を受けて反射する水……。
すると、何もなかった場所に、小さな雫が一つ浮かび、消えた。
見間違いだろうか。
私はもう一度、水を想像した。
すると、目の前には、再び雫が現れた。雫が増え、集まり、拳ほどの透き通った水の塊になった。
やった!本当にできた!――次の瞬間、水塊が飛散した。
「あぶっ」
待って、溺れる、危なっ。上を向きながら目の前に水を出現させちゃいけません!
生後二週間で死にそうになりながら、なんとか息を整える。自滅していて恥ずかしい。
あたりを見回すと、使用人たちがとてもざわついていた。
「Dunna ルシア ha usà magia...!?(ルシア様が魔法を使った……!?)」
「Impossia......(そんなはずは……)」
「Be duas emnas d'eta......(まだ生後二週間だぞ……)」
体を動かすと、使用人たちの肩が跳ねた。警戒しているみたいだ。
……確かに、赤子がいきなり魔法を使ったら怖い。私だって逆の立場なら警戒するだろう。使用人さんたちごめんなさい。
魔法を使えて嬉しかったけど、むやみに使用することはやめておこう。
……とは、思ったけれど、次はもう少し安全な方法で試してみたい。
この世界には魔法がある。
そして、どうやら私にも使えるらしい。
早く大きくなりたい。
そう思うと、なんだか少しだけ楽しみだった。




