02.どう考えても大げさな気がします
午後の陽射しが広間へ差し込んでいた。
庭では春風に揺れる花々が色鮮やかに咲いている。
その向こうで一台の馬車が止まり、見慣れた教会の紋章が目に入った。
また、屋敷に教会の使者が来たようだった。
広間の窓から外を眺めると、父が使者を突き返しているところが見えた。
「娘はまだ七歳だ」
「しかし神子候補ならば――」
「だからこそ、皇都へはやれん」
七歳の祝賀式で起きた、魔法属性の鑑定の儀。
あれ以来、教会の使者が毎日のようにやってくる。私の力について調べるために、皇都に来てほしいらしい。
「大司教様も関心を示されております」
「それでもだ」
「神託に関わる案件ですぞ」
「娘は神子候補である前に、私の娘だ」
なんでも、私は神託にあった神子の有力候補になったのだとか。
ただ、神子候補として正式にはまだ認定されてはいない。
認定するために、皇都に来てほしいのだとか。
私にできることがあるなら、協力したいとは思う。皇都という場所にも少し興味があった。
けれど、父は私のことを心配してくれているようだ。
まだ私が七歳だからだろう。私の中では、やっと七歳になれたという感じだが。
いつの間にか隣に立つ母が、私を抱きしめた。
私が遠くに行ってしまうのではないかと考えているのかもしれない。
「ルシアは傍にいますよ、お母さま」
最近ますます母の身体の具合が悪くなってきたようで、少し胸が騒ぐ。
庭園の花々が見頃を迎えても、母は長く外に出られなくなっていた。階段を上るだけで息が切れ、顔色も以前より青白かった。
以前、使用人たちが陰で話していたことを思い出す。
私を生んだ頃から、母の体調は少しずつ悪くなっていったらしい。
本当に関係があるのかは分からない。
それでも、その話を思い出すたび胸が締め付けられた。
私は何度も祈ってみた。けれど、母の病状は少しも変わらなかった。
怪我は治せても、母の病気は治せない。
聖女だとか、神子候補だとか騒がれているけど、私の力は万能ではないらしい。
……魔法の勉強、もっと頑張らないと。
厳しい表情をする父と、心配そうにする母とは打って変わって、姉と兄はいつも通りだった。
「ルシア、お勉強の調子はいかが?」
学院の短い休みの間を縫って、よく寄宿舎から屋敷に帰ってきてくれる姉が尋ねた。
「歴史が難しいです」
「ふふ、私も苦手だったわ。初代皇帝から歴代皇帝の名前まで覚えさせられるものね」
「昨日覚えたはずなのに、今日には忘れています」
「それはちゃんと復習しなさい」
姉はくすりと笑った。
「でも、しばらくは落ち着かないかもしれないわね」
「?」
「六属性すべてに適性があったのですもの。教会が放っておくはずがないわ」
「やっぱり皇都に行くことになるのですか?」
そう聞くと、姉は少し困ったように笑った。
「さあ。でも教会は一度詳しく調べたいでしょうね」
「ふーん……」
「神子さま、なんて言う人までいたものね」
「でも、まだ決まったわけではないですよね?」
「ええ。まだ何も決まっていないわ」
そう言いながらも、姉の表情はどこか複雑だった。
正直なところ、まだ実感が湧かない。
すると、兄が横から口を挟んだ。
「そんなのどうでもいいだろ」
兄も学院に通っているが、なんだかんだ家に帰ってきてくれている。
「ルシアはまだ七歳だぞ。皇都だの神子だの、急がなくてもいい。
皇都に行くのは学院に入学してからでいいんだ」
兄はむすっとした顔でそう言った。
「でも、役に立てるなら……」
「役に立つのは大人になってからでいい」
兄は迷いなく言い切った。
「あら、皇都は楽しいわよ」
「楽しいとか、そういう話じゃない。父上も母上も心配してるんだ」
「それは分かってるわよ」
皇都には、姉や兄の通う学院もある。
少しだけ行ってみたい気持ちもあった。
だけど家族はみんな、私のことを考えてくれているらしい。
だからこそ、父が司祭様を追い返す理由も、少しだけ分かる気がした。
私が思っている以上に、父は私を守ろうとしてくれている。
その理由を知るのは、もう少し先のことになる。




