01.なんと神託と同じ光を示したようです
この世界に生まれて、七年が経過した。
毎年誕生日には、水神の祝福を受けるため、領都の水神大聖堂へ赴く。
今年も、その日がやってきた。
「本日は、七歳の祝賀儀式となり、去年よりも大きな式典ですわよ」
と、乳母が言いながら、いつもより豪華な意匠が施されたドレスを着せてくれた。
今日のドレスは、水神を思わせる淡い蒼色だった。
裾には波を模した銀糸の刺繍が幾重にも施され、袖口には小粒の真珠が飾られている。
胸元には水公爵家の紋章が施され、歩くたびに裾がゆらりと揺れ、水面のようにきらめいた。
「いつもより重たいです……」
「七歳の祝賀儀式ですもの。我慢してくださいませ」
乳母の子であるテオとミーナも参加するらしく、普段より綺麗な装いをしている。
どうやら七歳の祝賀儀式では、水神への感謝の祈りとともに、子供の魔法適性を確認する慣習があるらしい。貴族の子供だけだが。
領都は屋敷から馬車で数時間のところにある。ずっとドレスで締められているのは窮屈だ。
私はお腹を押さえながら、馬車の窓から外を眺めた。
農村を抜け、城下町に入った。
すると、ルシア様ー!と子供たちの声が聞こえてくる。
「お誕生日おめでとうございます!」
「聖女さまー!」
「いや、まだ聖女ではないだろ」
と、若い男女からも声がかけられた。
どうやら、強い癒しの力を持つ女性は、人々から聖女と呼ばれることがあるようだった。
教会が正式に私を聖女だと認めたわけではないけれども。
広い湖に囲まれた橋を渡ると、白い石で築かれた大聖堂が朝日に照らされて輝いていた。
尖塔の上には水神の旗が風にはためき、鐘が静かに街へ響いている。
正面階段には正装した司祭たちが並び、祝賀の日らしい厳かな空気が漂っていた。
聖堂の周囲からは、修道院で学ぶ子供たちの笑い声が聞こえてきた。
白い修道服をまとった子どもたちが中庭を駆け回り、修道女が優しく見守っている。
家族の誕生日の他、毎年の水神祭にも訪れている。
だから領都の大聖堂は、なんだか第二の自宅のようだった。
色鮮やかなステンドグラスを通った光が、床へ青や金の模様を描いている。
通路には規制縄が張られ、公爵家がその中央を進む。
祭壇の前には、公爵家の面々が席についた。そしてその後ろには、騎士や侍女たちが控えている。
その傍らには、金銀の刺繍を纏った司教様が立っていた。今日の祭服は、普段より豪華な装いをしているようだった。
「水神よ、この子を祝福してください。
これまでの歩みを守り導いてくださったことに感謝いたします。
どうかこれからも恵みを与え、健やかに成長できますように。
水神の祝福が、ルシア・アクエリアと共にありますように」
祈りが終わると、柔らかな水色の光があたり一面に広がった。
ステンドグラスからの陽光も相まって、とても綺麗だった。
「こちらへ」
司教様にそう導かれ、私は祭壇へ続く階段を上った。
豪華なレリーフが施された石造りの祭壇の中央には、透き通った水晶玉が安置されていた。
水晶玉の奥では、まるで水面のように淡い光がゆらゆらと揺れていた。
その表面には六種類の文様が刻まれていた。これで魔法適正を鑑定するらしい。
「手を」
司教様に促され、水晶の前で手を翳した。
すると、各文様が、強く輝き始めた。
白、赤、青、緑、茶、紫。
六つの光が、祭壇一面を鮮やかに染め上げた。
後ろの一般信徒席がざわめき、人々が立ち上がった。
「なんだ今の反応は……!?」
「六属性……!?」
「しっ、静かに!」
六色の光は祭壇の上で渦を描きながら絡み合い、やがて眩い金色へと変わった。
金色の輝きは天井近くまで駆け上がり、ステンドグラスを黄金に染め上げた。
誰もが思わず息を呑み、その光景を見上げていた。
あまりの眩しさに目を瞑るも、次に開ける時には光は収まっていた。
「これは……」
司教様の表情が凍り付いた。小さく漏れた声は、ざわめきにかき消された。
目を見開いたまま、何かを確かめるように水晶玉へ視線を向けている。
「あんなに強い発光、はじめて見たぞ……!」
「六属性全てが強反応だ!」
さらに人々のざわめきは大きくなった。
父の表情は変わらない。だが、その目だけが鋭く細められていた。
母は息を呑み、姉と兄も驚いたまま言葉を失っている。
「神託に記された六色の光と同じではないか……」
「まさか……神託の子……?」
誰かがその言葉を発した後、ざわめきが拡大した。
「神託の子だ!」
「神子候補だ!」
「いや、神子さまだ!」
歓声は波のように大聖堂中へ広がっていった。
みんなの盛り上がりようが、なんだか怖く感じた。
「静粛に!」
司教様の喝で、あたりが静まり返る。
「本日の出来事について軽々しく語ることを禁ずる。
神子認定は中央教会のみが行える。憶測で民を惑わせることは許さぬ」
そう言って、祝賀の儀は終わった。
しかし、すぐに噂は領内に広まったようだった。
大聖堂の外には、儀式を待っていた領民たちが広場を埋め尽くしていた。
「神子さまー!」
「神子候補さまー!」
馬車が進むたび、そんな歓声が四方から飛んできた。
父も母も、誰も喜んでいなかった。本来なら、お祝いの日のはずなのに。
姉と兄もなんだか気難しそうな顔をしている。
それが不思議だった。
神子や神子候補と呼ばれても、嬉しいとは思えなかった。
むしろ胸の奥には、小さな不安だけが残っている。
姉の友人のエレオノーラ様は、有力な神子候補って聞いていたけど、神子とは何なのだろう。
なぜ皆、あれほど騒ぐのだろうか。
――まるで、何かが始まってしまったかのようだった。
祝賀の日に生まれた疑問は、しこりのように胸の奥へ沈んでいった。
あの日見た黄金の光が、私の日常を大きく変えていくことになるとは、この時の私はまだ知らなかった。




