異世界日帰り一日目!
一頻り涙を流し、どこかすっきりとした顔をしている風に見えなくもないゴリラ――ゴリ子はその後、レンジを友好的な空気感で元居た村に案内した。
最初に来たときは気が付かなかったのだが、ちらほらと火事の生き残りがおり、複数体のゴリラがゴリ子と一言二言交わすと、突然はしゃぎだし、残った家屋からこれでもかと食料と飲み物を取り出し、村の中心に大きな葉を敷いた箇所にレンジを座らせ、その正面に食材――バナナを置いていた。
「おいおい、ゴリ子にも言ったが、バナナは分け合うものだぞ。俺1人では食いきれん」
「うほうほうほっ! うっほう!」
ゴリ子の声に、ゴリラたちがドラミングをしながらはしゃぎ始めた。
意思疎通が出来ているのかは未だに謎だが、少なくともレンジの声は届いているらしい。
ゴリラたちがバナナを食べ、うかがい知れない飲み物を口に運び、陽気に踊り、レンジの方を向きうほうほ言っていた。
「ああ、騒げ騒げ。新たな門出だ、今日の宴を糧にしろ」
「うっほううっほう!」
レンジはゴリラたちから受け取ったバナナを剥き、口に運んで喉を鳴らして笑う。
すると隣にいたゴリ子が手を差し出してきたのを見て、レンジは首を傾げる。
「うほううほううほうほ、うほうっほ、うほうほ、うほほ、うほ、うっほ」
「ふむ、ふむ……」
レンジは彼女の手を握り返すと、ゴリ子はふっと微笑みを浮かべたような気がした。
そして1人と1体が固い握手を交わすと、レンジはバナナを彼女に手渡した。
「うほぅ」
「友よ」
頷くゴリ子の瞳には親愛でも、情愛でも、ましや他人に向けるそれとは違う。憧れに近いような、それでいて対等だと認めたような――レンジの言う通り、友愛に似たような、それこそ友。まさに対等だと彼女が認めたような空気感があった。
レンジはふっと笑みをこぼすのだが、ふとポケットに入れっぱなしだったスマホを開いた。
「む、もうこんな時間か。あと1分で日が変わるじゃないか――」
レンジがそう言った瞬間、目の前にいたゴリ子も、景色も妙に霞む。
眼鏡のせいではなく、世界そのものが揺れているようで――。
「え――?」
目を開いたレンジが見た景色は馴染みのある景色で、辺りは真っ暗だが、それは朱鷺海 恋慈が普段学校から通る自宅までの帰路。
恋慈は戻ってきた世界に安堵するでも、今までが夢だったのかと驚くでもなく、体を震わせて天を仰いだ。
「なんっっっっっもわかんなかったぞ! ゴリラと犬としか会ってねえ!」
当然の文句である。
「せめて説明しろぉ!」
そんな恋慈の声も空しく、夜の帳に解けるように――ご近所迷惑上等に放たれた咆哮も誰かが答えることもなく、遠く遠くの彼方まで消えていった。
朱鷺海 恋慈は帰ってきた。
どこに行っていたのか、何故行っていたのか、何もかもわからずに帰還を果たした。
「日帰りかよ!」
その通りなのだろう。
これはこのどこかアホっぽいが義理堅く、それでいてノリのいい。さらに喧嘩はめっぽう強い朱鷺海 恋慈が日帰りで行く異世界のお話である。




