ケダモノの流儀を語れ!
「我らの悲願はついに果たされる――王国の悪政をついに挫く時が来たのだ!」
街にある古びた教会、そこでローブを羽織った男女50名ほどが宿願を果たそうとするアレバフに、体を震わせ涙を流す者もおり、その夢に、その宿命に、術式の技術の粋を集めた杖をかざして歓喜していた。
「これで救われる、これで我々は真の自由を得られる――我々に必要なのは力だ! 振り返るな、例え屍を踏みつけてでも我らは進まねばならん――」
「いい覚悟だ。だが俺たちと事を構えてしまった――その不運は、うちのウサギでも肩代わりできなかったようだな」
英雄が誕生するかもしれない。それは国にとって、世界にとって通らなければならない運命だったのかもしれない。
それは正義の行ないだったのかもしれない。それは望まれた悪行だったかもしれない。
人類にとってのターニングポイントだったかもしれない――。
だが知ったこっちゃない。
今その人類が、英雄の卵が、世界の命運が、それらが対峙するのはただの一匹のケダモノ――。
彼らの理に、運命などという世界律は存在しない。
日野畑高校1年3組、百獣の名を持つケダモノが、魔法使いたちの中心に突然現れた術式から飛び出してきた。
「『獣王気――」
「――ッ! 全員退避――」
正面に現れたレンジに、アレバフは顔を真っ青にし、瞬時に自身とローブの男女たちに障壁を張ろうとする。
しかし遅い、遅すぎる。
それはケダモノにとって欠伸が出るほど暢気なものであった。
「王ゴリラ」
血管が浮き出たレンジの腕が彼の纏う戦闘圧によって大きく見える。
それは気配が生み出した幻覚なのであるが、ただの拳にすべてを終わらせるほどの説得力を持たせた。
レンジがその瞳に映すのは気高きゴリラの王――初めての異世界、そこで出会った泣き虫だが覚悟を瞳に映した毛むくじゃら。
レンジはあの泣き虫を、あのゴリラを、ゴリ子と呼んでいた女性服を着ていたおよそメスゴリラを、内の中で王と認めた。
「大鐘打神楽』」
ケダモノが嗤い顔を隠そうともせずに、牙をむき出しにしてその拳を教会の床に向かって叩きつけた。
音、音、音――床を叩きつけた拳はまるで大きな鐘を鳴らすような音をかき鳴らし、その音は衝撃となって教会の床をめくりあげ、周囲にいたローブ姿の男女の大半をぶっ飛ばした。
崩れた教会の中心で、神をも畏れぬケダモノが笑う、嗤う――。
手のひらを何度も胸に打ち付けて、恐怖に体を震わせる魔法使いたちにケダモノの流儀を思い知らせる。
百獣は今ここに、開戦の遠吠えを上げるのだった。




