凛と鳴る偽乙女はその牙を覗かせる
「やりすぎだアホぉ!」
「……あれを、腕力だけで? 恐ろしいのぅ」
「あいつ多分ジャンプ作品の世界に生まれるはずだった人間なんすよ」
「似たようなことが出来る奴はうちの学校にもいるだろうが」
全国から選りすぐりの不良たちが集まると評判の日野畑高校、日本一になると夢を抱いてこの学校に一人暮らししてまで入学したのもつかの間、化け物だらけの在学生に、そこそこの人数の生徒が挫折するとかしないとか。
「いやはや、レンジ君たちの周りには勇者みたいな人たちがたくさんいるんじゃな」
「勇者――」
コウがウィスパーにその勇者について聞こうと口を開いた瞬間、レンジがコウとリンを手で押し出した。
「わっ、レンジなにす――」
「すまんじいさん、間に合わなかった」
「若い子優先じゃよ。わしはこれを解く準備でもするかね」
コウとリンがレンジとウィスパーに目をやると、彼らは半円球の見えない壁に閉じ込められており、レンジはその障壁に触らないようにしていた。
「リン、厳しいようならコウを連れて逃げろ」
「あいあ~い」
「ちょ、ちょっとリンちゃん!」
コウが抗議の目をレンジに向けるのだが、降ってきた瓦礫を勢いよく退かしたアレバフが笑い声をあげた。
「そうだ、そいつと老いぼれさえいなければ――」
「――」
半円球の障壁の中で、レンジが人を射殺さんばかりの殺気を交えた睨みを放ち、それだけで障壁が揺れたように見えた。
「ひっ――だ、だが! この障壁は俺の術式30枚重ねた特大障壁だ! いくら老いぼれでも、そこの化け物でもやすやすとは解くことは出来まい! 残ったのは――」
アレバフがその目をコウとリンに向けるのだが、コウは肩を跳ねさせ怯えたのとは裏腹に、綺麗な小学生6年生の女児の見た目をしたリン――伊吹 凛之丞は満面の笑顔で鉄パイプをブンブン振り回していた。
「それじゃあ俺の独壇場ってことで」
「り、リンちゃん、気をつけなよ」
「任せてよ――鈴の音くらいは鳴らしてあげる」
リンはスマホをポケットから取り出し、ストラップになっている小さな鈴を鉄パイプに巻き付ける。
日野畑高校、もう1人の問題児、百獣に傅く阿吽の一。伊吹 凛之丞が動き始めるのだった。




