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朱鷺海 恋慈の異世界⇔現代、拳で語れ!  作者: 筆々
3章 獣は幸運を憂い凛と鳴る

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選ばれちまった子どもたち

「お前たちか、先ほどから我らの邪魔をしているのは」



「邪魔をしているとは心外だな。俺たちはただ、ジジイの話に付き合っているだけだ。年を取ると話が長くて敵わん、まだまだ話が尽きないそうでな、お前たちとも顔を見合わせることになりそうだ」



 店から出たレンジとリン、2人は店を囲っているローブを着た男女10人ほどに目をやり、その先頭でふんぞり返っている偉そうな男に意識をやった。



「魔法使いって本当にローブ羽織ってんだね。俺ならもっと可愛い服選ぶんだけどなぁ」



「その鉄パイプを持ったままか?」



「当たり前じゃない――」



 リンが好戦的な笑顔でローブ姿の者たちに突っ込もうとしたのだが、ハッとした顔を浮かべたレンジがリンの襟を引っ張りその場で停止させた。



「とっきー?」



「……なんだ? 得体のしれないものを纏っている」



「ん~?」



 じっと観察するレンジだったが、店の窓を開けてレンジたちの戦いを観戦していたウィスパーが感心したような声を上げた。



「レンジ君は本当に見えていないのかえ?」



「そのはずだけど――おじいちゃん、あいつらなんかやってる?」



「『障壁解放術式(アニムスロアー)』あそこでふんぞり返っている男がおるじゃろ? 奴の名はアレバフ=シュエリー、奴はこと障壁に関しては一級相当じゃよ。しかしそれを見ただけで看破するとは、レンジ君も大概おかしいがの」



「どういう魔法?」



「体に障壁を張り、物理攻撃なんかを届かないようにしておるの。多分レンジ君がさっき戦ったからその対策をしてきたんじゃろ。あれは魔法でないと倒せなさそうじゃな――」



「なんだ、そんなことか――レンジ! 体に攻撃届かないってさ」



「なるほど……屋敷先輩と同じ感じか」



「あ~、うん、そう。あれは寸でのところで体を1コンマくらいずらしてるだけなんだけれどなぁ」



 口を手で筒を作って覆い、レンジに向かってアドバイスするコウなのだが、ウィスパーが首を横に振っていた。

 当然だろう。物理は届かないと言われているのに、それを大声で説明して何になるというのか。ウィスパーの疑問はもっともだろう。

 けれどそこで戦っているのは百獣である。



「『獣王気――」



 レンジが脚を踏み出すと、ローブの大男が1人飛び出してきた。

 そいつが自身の体を叩き、魔法陣が現れるとその杖を振るってきた。



 男は『強化解放術式(アルストロアー)』と叫び、明らかに一回り大きくなった腕で力任せに杖を振った。

 技術も何もないただの力による暴力――そんなものがこの朱鷺海 レンジに通用するわけがないが、彼はその強化された力とアレバフと呼ばれた彼が張った魔法を妄信していた。



 レンジは振るわれた杖を苦もなく躱すとその男の横腹に手を添えた。



獅子王天波(ししおうてんは)』」



 レンジが猫の手をちょいと振るった瞬間、男の体から乾いたような何かが折れた音が鳴り、同時にその大地から足を上げて吹っ飛んで行った。



「あばらの1,2本折れているかもしれんが、魔法なんてものがあるのなら多分きっと治せるだろう」



「……ほえ? わし今物理届かないと言ったよな? レンジ君は魔法を使えるのかえ?」



「いや、なんつったかな。レンジっ」



「ん、ああこれのことか? じいさん、確かに今殴ったとき奇妙な感覚がしたし、俺の拳は届かないのだろうな。だが攻撃は届く。だって攻撃だ、届かない道理はない。だろ?」



「ん~~~? うむ……そうじゃな!」



 あらゆる魔法に思いを馳せ、その思考を止めることのなかった偉大なる魔法使いは脳が考えることを止め、阿呆っぽい空気感で親指を立てて常識の通じないケダモノに満面の笑顔を向けた。

 人の理など通じない。この老人はそれを理解してしまったのだろう。



「えっと……つまり発勁は効くってことかな。でもとっきー無意識にやってるし、あれも発勁に似たなんかよくわかんないものなんだよなぁ――まっ、いっちょやってみますか」



「リン?」



「ん~ん、これなら俺でも倒せそうだなって」



「そうか、それならそっちは任せる」



 レンジがリンに背を向け、アレバフに向かい合っていると、そのリンが何度かの短い呼吸を繰り返し、手に持った鉄パイプに意識を向けているがわかる。

 そしてリンがひときわ大きく空気を吸い込み、そのまま呼吸を止めると、彼が纏った戦闘圧が大きく膨れ、そして弾けた。



「うし――」



 リンがローブの女性に近づき、魔法を放とうとしている彼女へ鉄パイプを一閃、顎に向かって放たれたそれは、ローブ女性の「こひゅっ」という肺から直接息を吐き出されたような吐息とともに、彼女を大地に沈めるに十分な威力であった。



「うん、通るね」



 リンは確信を得たようにうなずき、そのまま上機嫌に鼻歌を鳴らし始めた。



「リンも絶好調だな。さあ、俺の相手、お前に務めてもらうぞ」



「な、なんだお前ら――」



「なんだとはなんだ? そもそもお前たちがじいさんにちょっかいかけるかけるからこんなことになっているのだろう」



「黙れ! 横から突然現れ、我らの崇高な使命を邪魔し、挙句の果てに我らの魔法すら侮辱するか」



「その崇高な使命とやらにじいさんを巻き込んでいる時点でたかが知れているがな」



「我らの使命の礎となるのだ! それほどの名誉はなかろう」



「……で? その崇高な使命とはなんだ――」



 レンジが瞳を鋭くさせ、彼らの目的を聞き出そうとしていると、鉄パイプをブンブン振ってふんふんと鼻歌を鳴らしていたリンが歌い始めた。



「ふーるすぴーどで~、まわ~りはじめた~すと~りー――」



「奴の解放術式は人ではなく、命無き物にまで作用する。それは即ちあらゆる物が魔法という可能性を秘めているということだ」



「……だからなんだ? ならお前も同じことをすればいい。じいさんは関係ないだろう」



「――あか~くだいち~ふふふふ~」



「あの老いぼれの作りし2つの杖、それはこの世の魔法という概念を覆すものだ。解放術式は自身の素質を操作することによって様々な魔法を作り出すことが出来る。しかし奴の作り出した杖はそれをさらなる高みへと進化させる」



「よくわからんな、魔法とは面白いものなんだろ? それなのにさっきからじいさんの研究をどうとか、じいさんの話しかしていない。お前たちのことを俺は聞いているんだ」



「つづくさ~かみち~を、いまおもいき~り~かけぬけて~――」



「それが出来たら苦労しない! 忌々しいことに、そこの老いぼれの実力は本物だ、俺たちでは到底届かない。それなのにそこのジジイは今お前が話したように魔法を楽しめと抜かす。阿呆が! 魔法とは世界を変える力だ! この世を正しき方向へと導く我らの手段だ! お前は知っているか、この国、この王国がどれだけの民を、どれだけの同胞を――」



「たちあが~れゆうしゃ――」



「あっすまん盛り上がっているところ悪いがちょっと待っててくれ――リンお前! それ以上はやめなさい!」



「リンちゃんそれ! パパ――父さんが見てたアニメの主題歌でしょ! 状況似てるかもだけれど、今はちょっとお口閉じてよう」



 もう数十年も前、世の男児たちを虜にしたあるアニメの2作目、日曜朝の子どもたちのワクワクアドベンチャー、リンはそのアニメの主題歌を歌っていた。



「リン、ここはデジタルではない!」



「でもさとっきー! 俺のワクワクが、デジ〇ンを捜すことを諦めきれてないんだよ! ピッコロモンとかマリンエンジェモンを相棒にしたい!」



「……なるほど!」



「納得すんな! リンちゃん今、大事な話してるから――」



「兄貴だってパタモンいたらずっと抱っこしてたいでしょ!」



「……」



 顔を逸らしたコウは、お店が出してくれた果物のジュースをそっと飲み、ウィスパーに向き直った。



「おじいちゃんその杖ってどっか隠してるの?」



「む、う~む、ここにあるぞい」



 そう言ってウィスパーが空間から杖を2本取り出した。

 ウィスパーもレンジとコウ、リンの緩い空気に飲み込まれてしまったのだろう。

 顔を赤らめ、体を震わせていたアレバフが吼えた。



「貴様らぁ! いい加減に――」



「隙みっけ!」



「ぐえぇぇぇぇ!」



 鉄パイプで思い切りフルスイングされたアレバフは鼻から血を流し、ぺたんと横座りになって大地を滑っていき、リンに涙目を向けていた。

 しかし――。



「そっちもね――」



「むむっ!」



「あっおじいちゃん杖とられたよ!」



「何出してんだじいさん!」



「うっかり!」



 ウィスパーの傍に突然生えた女性がウィスパーの取り出した杖をとって店から飛び出した。



「兄さまなにをやっているんですの! こんな阿呆どもに関わっている暇なんて――ひっ」



 飛び出して逃げ出そうとする女性に、レンジがあり得ないほどの殺気を込めて睨みつけていた。



「それを――」



「き、緊急脱出! 『転移解放術式(エルストロアー)』」



 途端、女性とアレバフ、そしてローブの者たちが光始めてすぐに消えた。



「……」



「……」



 レンジとリンが呆然としていると、あわわとしているコウの隣で、ウィスパーがべっと舌を出しウインクを1つ。



「やっちゃったっ」

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