半日授業で長くいられます!
「すまんすまん、ちいと長引きおったわい」
「引っかけでもしたか? 老人は狙いが安定しないからな」
「まだまだまっすぐ立っとるわい」
「それは何よりだ――ところでじいさん、いくらガキ相手とは言え、トイレに行く時も貴重品は手に持っていたほうが良いぞ」
「……レンジ君は本当に子どもかえ? 何もかもが熟練の戦士然としておるのぅ」
「なに、見る目はある方なんでな」
「ほとんど見えてねえくせに何言ってんだお前」
「おや、なんじゃレンジ君、目が悪いのかえ?」
「逆逆、目が良いのに眼鏡してるからほとんど見えてないんだよ」
「……なぜ?」
「馬鹿め、知性派の俺の目が良いわけないだろう。頭のいい奴は皆目が悪いんだ!」
「こいつアホなんですよ」
「とっきー視力2,0どころかマサイの人たちもびっくりな視力してるからねぇ」
「犬飼ってる友達の家に行ったとき、たまたまメガネが外れたレンジが、おいおいダニいるぞってピンセットで掴んだ時はこいつ人間じゃねえなって思ったもん」
長年の友人からすら人間だとは思われていない男、朱鷺海 恋慈である。
しかし今の話に首を傾げていたウィスパーだったが、コウはただの善意で彼にスマートフォンを見せ、何故かつながっているネットからダニを検索し、それを見せながら説明していた。
「ほ~、ほ~……なるほどなるほど、つまりレンジ君に魔法は必要ないということじゃな。目をよくする『解放術式』はあるが、そんなもんまで見ようとは思わんからのぅ」
「まっ、そういうことだ。それでじいさん、じいさんは俺たちにお友だちのことを紹介してくれんのか?」
「む? ああ、さっきの――」
レンジ、続けてリンが店の外に目をやった。
目だけでなく鼻もいい獣である。
「まったく、まだ何も食っていないのだがな」
「とっきー、今度は俺もやっていい?」
「む……わしの探知より速いとはのぅ。本当にしつこい奴らじゃ」
「こいつら何故じいさんを狙ってる?」
「実はちょっとした実験で、物に『解放術式』を宿せないかと研究していたところ、わしが偉大過ぎて成功してしまっての、『解放術式』の宿ったその2本の杖をよこせと五月蠅くてな」
「くれてやればいいんじゃないか?」
「嫌じゃ。あいつら絶対にろくな使い方せんもん。わしは魔法を楽しく使ってくれる者にこれを託したい。それに多分杖が認めてくれんよ」
「条件まであるのか。まっ確かにろくでもない使われ方をしそうだな――」
「しかもやつら亜薬にまで手を出そうとしているからの」
「……」
「……」
ウィスパーの言葉に、レンジとコウが眉をひそめた。
亜薬と言えば2度目の転移で散々聞いた名前で、しかもその製法がおよそ認められないものであるために、2人は嫌悪感をあらわにした。
「……2人は優しい子たちじゃの。亜薬なんてなくなったほうが良いに決まっておる。あんなもの魔法使いとしても外法であるし、人としても、命としても歓迎するべきものじゃない」
「じいさん、その亜薬とやらのこと、後でもっと教えてくれないか? 友だちが攫われそうになったんだ」
「亜人の友だちがおるのか。良いことじゃな――うむ、このジジイの知識が役立つのならいくらでも教えてやるぞい」
「よしっ、それなら今から役に立ってやろう。リン、行くぞ。コウはじいさんといろ」
「ん、頼んだぜレンジ」
「今度は倒しがいがあるといいなぁ」
そんなことを口にしながら、レンジもリンも邪悪な顔つきを隠そうともせずに店から出ていく。
そんな2人を見て、コウがため息をついた。
「楽しそうだなぁ」
「戦うことが好きなんじゃなぁ。窓開けて観戦でもしておくかの」




