素質の魔法
「ん、やってるな」
裏庭から戻ってきたレンジは庭の芝生で講義を受けているコウとリンに近寄り、ウィスパーが使っていたホワイトボードに目をやる。
「ポンタラジン語か、俺もまだ七割しか理解していないが、じいさんやるな」
「共通語じゃよ~。変な言語にするんじゃない」
「ふふ、見てくれこの文字の丸み、芸術点高いぞ――」
「邪魔すんな! 大人しく座ってろ」
シュンとするレンジをよそに、コウはウィスパーの話に釘付けであった。
小学校の卒業アルバムにある将来の夢の欄に魔法少女と書いた男は伊達ではなかった。
「……コウ君や、魔法というのは様々な影響を世界に、人に、社会に与える。じゃがな、わしは魔法とは正しさよりも先に、楽しいものであってほしいのじゃよ」
ポツリと話すウィスパーに、コウは首を傾げる。
「えっ魔法って楽しいものでしょ? キラキラしてて、ワクワクして――楽しくなくちゃ好きになんてならないよ」
「――」
目を見開いていたウィスパーだったが、途端に目を細め、うんうんと頷いてコウの頭を撫でた。
「そうじゃな、そうじゃな――コウ君は可愛いのぅ、孫に欲しいのぅ……わしの財産いらん?」
「いらないって。渡す当てがないのならおじいちゃんが使いきっちゃいなよ。俺本当のおじいちゃんまだ生きてるし」
「じいちゃん俺はぁ!」
「ふふ、無邪気に鉄の棒を振るうの止めて」
ウィスパーは術式を再度展開すると、コウとリンの手を取る。
「『解放術式』とは別に1人1個というわけではない。元となる術式をこうやって表に出し、それに様々な素質、魂の欠片、それを欠き合わせることで魔法となっていく」
自身の指先に先ほどのピアッサーらしき針を刺したウィスパーは溢れた血をコウとリンのさっき穴をあけた箇所に重ねた。
すると伊吹兄弟にも術式が現れ、ウィスパーがやるような空間系――所謂アイテムボックスが使えるようになった。
「こうやって、他人の作った術式も取り込むことが出来るから、覚えておくとよい。まあ相性はあるがの」
「じいちゃんこれ鉄パイプはいんないよ!」
「素質ないんじゃろうなぁ」
「あんだとコラぁ☆」
「可愛く言っても事実じゃから受け止めなさい」
ぶー垂れるリンを横目に、コウはボストンバッグの中身を丁寧にその術式に移し替えていく。
リンとは違い、コウには空間を操る才能があったらしい。
「これで、魔法自分で作れる?」
「うむ、手伝いはいるかえ?」
「ううん! こういうのも楽しい。でも出来上がったらおじいちゃんちゃんと見てね」
「うむうむ」
「やっぱキラキラなのが良いかなぁ。人のことは傷つけたくないし、ちょっと面白い感じになる奴のほうが良いかなぁ。でもそれじゃあ役に立てないかなぁ――むむむ」
コウがそうして考え込んでしまったからか、レンジはウィスパーに目をやり、軽く頭を下げた。
「コウが楽しそうだ、感謝するぞじいさん」
「なぁに、これだけ楽しそうにしてくれるからの、わしの魔法使い人生も無駄ではなかった。レンジ君もどうかね?」
「遠慮しておく、俺には向いていない。それに俺にはこの体があるからな、必要にも思えん」
「つれないのぅ」
「それでじいさん、友だちはよく選ぶべきだぞ。じいさんの友人、じいさんのこと魔法使いの風上にも置けんとか言っていたぞ」
「おや、手厳しいのぅ……そいつどうなった?」
「手足折っといた」
「よっしゃぁ!」
「良い性格した爺さんだ」
レンジは鼻を鳴らし、真剣な顔で魔法に向き合うコウと飽きてきて鉄パイプを振りながらイシュリを追いかけるリンに目をやるのだった。




