余裕の拳です
「さて、こっちか――」
コウとリンと別れたレンジは、最初に飛ばされた庭から裏庭にまで歩みを進め、人のいない場所で大きく伸びをして骨を鳴らす。
「さっさと出てこい。俺が遊んでやる」
「――」
レンジが鋭い視線でそう告げると、何もない空間から魔法陣が現れ、それを通って現れた数人の人間。
どのような術式が使われたのかわからないが、突然姿を現すことのできる魔法らしい。
「ふんっ、野蛮な冒険者か。貴様らの魔法も、しょせん我らの真似事よ」
「突然現れて随分とつれないな。まあいい――それよりお前ら、ここは手を引いてはどうだ、俺の連れが目を輝かせてあの爺さんの話を聞きたがっていたんだ、邪魔しないでくれると助かる」
「あの魔法使いの風上にも置けん老いぼれに教えを乞うなど、その者も大したことはないな」
「その老いぼれを必死こいてつけ狙っているお前たちは偉大だとでも? 年寄りなんて狙わずに、もっと格上に喧嘩を売ったらどうだ」
自分たちは偉大な魔法使いだと口々に言い続ける彼らに、レンジは呆れていた。
魔法使いの世についてレンジが知る由もないが、少なくとも老人一人によってかかる彼らに正当性はない。
「奴は確かに魔法使いとしては終わっているが、それでも奴の作る術式は大したものだ。我らはそれだけは認めている。それを我らが活用してやろうと言っているのに、奴は――」
「ああもういい、わかった。お前たちがどうしようもない阿呆だってことがよく分かった。グダグダ言わずにかかってこい。お得意のその魔法とやらを存分に使え――」
レンジが言い切るよりも先に、彼がいた箇所が爆発を起こした。
敵勢力の1人がニヤケ顔を浮かべていた。
「馬鹿め、術式を使わせなければお前ごときこの程度で――」
「で?」
すでにその爆発する魔法を放っていた男の背後に移動していたレンジは彼の首をそっと絞め、きゅっと極めた。爆発男はそのまま気を失い、大地に放り投げられた。
「ば、馬鹿な、術式の反応など」
「そんなもん知らん、俺は俺の力だけで動いているにすぎん。そんなものに頼らんでも簡単に締められる」
驚いた表情の魔法使いたちだったが、すぐにあらゆる魔法をレンジに向けて撃つ始めるのだが、標準の定まっていないそれらは躱すに易し、レンジは技を使うことなく、次々と魔法使いたちを殴り倒していった。
「な、なんだお前――」
「もっと筋肉をつけろ、もっと殴り合いをしろ、もっと血を流せ――お前たち、戦いになれてなさすぎる。闘争心も蚊ほどしかない」
指の骨を鳴らし、ニヤケ顔で彼らに近づくレンジに、その魔法使いたちは顔を青ざめて叫び声をあげた。
「こ、こっちに来るなぁぁぁ!」
そんな断末魔を上げて、レンジと楽しい太鼓のお達人を繰り広げていくことになるのだった。




