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朱鷺海 恋慈の異世界⇔現代、拳で語れ!  作者: 筆々
3章 獣は幸運を憂い凛と鳴る

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素直な強がり

「ふむ、つまり君たちはなぜここにいるのかわからないと?」



「うん、なんかしょっちゅう飛ばされるの。おじいちゃんさ、原因わかんない?」



「うむ……転移の魔法は特権階級(・・・・)にしか――それか女神の上位信徒(・・・・・・・)、しかし理由の方は……」



「おじいちゃん?」



 考え込んでしまったウィスパーに、コウが首を傾げるのだが、ご老体はすぐに懐っこい顔を浮かべ、コウに追加で飴を手渡した。



「すまんのぅ、あまり役に立てそうにないわい――ところでそちらはよいのか?」



 ウィスパーがコウの背後に目をやるのだが、そこには拳骨を落とされて頭を抱えているレンジとリンがおり、コウは首を横に振った。



「話が進まなくなるからいいんだよ。あれのことは気にしにないで」



「そうか――しっかし、随分と強力な『解放術式(ロアー)』を使うのぅ」



「ろあー?」



「うん? 知らんのか? ふむ……」



 するとウィスパーはこほんと咳ばらいをし、コウの目の前で手のひらを指差した。



「解放術式と呼ばれる魔法、それをロアーと呼ぶ。ロアーにはさまざまな用途があり、用途によってまた名前も変わる。ジジイの手のひらをよく見ておきなさい」



 ウィスパーの手のひらから紋章――つまり魔法陣が発生した。



「『空間解放術式(グリッドロアー)』」



 手のひらに発生した魔法陣に手を突っ込んだウィスパーが、手品にしても明らかに容量不足な大きさのホワイトボートをそこから引っ張り出した。



「わっ」



「便利じゃろ? 空間系統の術式を組んだ解放術式(ロアー)を体に埋め込むことで我々人間は魔法を行使することが出来る」



 ウィスパーはホワイトボードに術式を幾つか書きなぐっていき、生徒と先生のようにコウにそれを伝えていく。



「術式によって使える魔法が異なるのだが……わしの今使った『空間解放術式(グリッドロアー)』には物を大量にしまえる空間を作る魔法が組まれているというわけじゃよ」



「へ~……」



 コウはちらとレンジとリンに目をやった。

 それを見ていたウィスパーはクスリと笑い、コウの頭を撫でた。



「2人が特別優れているわけではないとわしは思うがね」



「……相棒だし、お兄ちゃんだし」



「コウ君は良い子じゃの~」



 ウィスパーに撫でながら頬を膨らませているコウに、レンジが近寄りフッと鼻を鳴らす。



「じいさん、中々に見る目があるな。コウはそういう奴だ」



「お前さんも若いのに随分と貫禄があるわい。まさか解放術式もなしにあれだけ戦えるとは、おぬしらもしや亜人か?」



「その亜人とかいうのの友だちはいるな」



 レンジはコウの隣に腰を下ろし、ふと周囲に意識をやったのがわかる。

 どうにも囲まれているというよりは視線だけがこの場所にあるような感覚――見られている。レンジは確かにそれを感じ取っていた。



「ここの連中は何だ? 少なくとも魔法を習っている学生には見えんな」



「鋭いのぅ。それに周りにも気が付いたか――わしらは嫌われておるからの」



「そうか? 俺にはお前たちは心地よい人間に思えるがな」



「あんだけ殴っておいてよく言うわい。まっ、本気でやられとったらこんなもんではないか」



「じいさんあんた強いな。本気でやりあってみるか?」



「馬鹿を言うでない。わしゃあもう年じゃい」



 薄く笑うウィスパーにレンジはわざとらしく肩を落とし、指の骨を鳴らした。



「なあじいさん、ここに腕利きがいるわけだが――ちょっとお願いを聞いてくれないか?」



「……わしらに何の得がある?」



「守ってやる。その代わり、コウにその魔法とやらを教えてやってくれないか? 俺もいい加減、手が回らなくなりそうでな、自衛手段を持ってほしいと思っていたところだ」



「おいレンジ――」



「ふむ……」



 ウィスパーはジッとコウを見つめ、そして体をまさぐる様に彼の体に触れていくのだが、決してやらしい感じではなく、純粋に見極めているという感じであった。



「う~ん? う~ん――コウ君や、何か変なものを使わなかったかえ?」



「え、へん? ごめんわかんない」



「変なものと言ったらあれだろ、翁に貰った」



「ああ、霊薬――」



 コウがボストンバックからこの間翁からもらった小瓶を取り出したのだが、ウィスパーが口をあんぐりと開け、その小瓶をそっと持っていたハンカチで包むと、すぐにコウに押し返した。



「これは、海の神秘(デリスマリア)の霊薬――コウ君や、それをむやみに人前に出してはいけないよ」



「え、うん」



「あ~ね、なるほどなるほど――うんっ、いいじゃろう。コウ君にはわしの魔法のすべてを教えてしんぜよう」



「いいの?」



「うむっ、良い子じゃしの」



 微笑むウィスパーに、コウは照れたようにはにかんだ。

 しかしすぐに近くでリンが手をびしっと上げた。



「双子の俺も習う権利はあると思うの!」



「お前さんは物理で戦えばいいじゃろ」



「やだっ兄貴と一緒のことしたい!」



「ついでに面倒を見てやってくれ」



 レンジはそう言うと伊吹兄弟をそれぞれ一撫でし、大きく伸びをして一団から離れるように移動する。



「レンジ?」



「ちょっと虫をはらってくる。じいさん、それでいいな?」



「うむ、任せるぞい」



 レンジは片手を上げるのだが、コウがハッとしてその背について行こうとする。が、立ち上がろうとするコウをリンが押さえ込み、ウィスパーに目をやった。



「それじゃあお願いしま~す」



「り、リンちゃん、レンジが――」



「良いから良いから。とっきーがあんなのにやられるわけないでしょ。兄貴はここで一緒にお勉強」



「むぅ」



「仲がいいのぅ。あのレンジとかいう青年、いい男じゃの」



「わかるじいちゃん? とっきーは格好いいんだから」



 そうして、突如として伊吹兄弟魔法講座が始まったのだった。

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