虎の尾を踏みつけて
「さて……」
レンジは息を吐き、辺りを見渡し、短い棒を持って呆然とした顔をしている約20人ほどの老若男女それぞれに意識をやる。
そこはどこかの街の屋敷の庭らしく、大きな建物とその裏庭の大部分を占める林――というよりは巨大なビオトープ。木々が生い茂り、大きな公園と呼んでもいいほどであった。
そんなレンジを見て、コウはげんなりとした顔でリンを引き寄せた。
「最初は大人しくしてような?」
「う~ん……うぃ」
学校から持ってきていた鉄パイプで地面に軽く叩きつつ、リンは返事をした。
そしてコウはそっとレンジに目をやると彼が頷いた。
「誰だ貴様ら!」
レンジは叫んだ。
「こっちのセリフだよ! 魔法の特訓してたら突然現れて、君たち一体何者だ!」
返事をしてくれた立派な髭を顎から生やしたご老体、レンジは彼に一度目をやるとそっと近づいていき――。
「な、なんだね――」
「ふん!」
彼のひげを一本抜いた。
「いったぁ! なにすんの!」
抜いたひげに息を吹きかけ、空へと舞わせたレンジは、宙を舞うその一本の髭を燦々と照っている太陽から目を隠すように手で顔を覆い、どこか哀愁のある顔つきでヒゲの向くままを見送った。
「達者でな」
「いやなんだお前!」
コウがレンジを半目で睨みつける。
突然漫才を始めたレンジに言いたいことがあるのだろう。誰でもそうだろう。
「いや何やってんのお前?」
「いや、初っ端から会話ができる相手がいることに驚いてな。俺もどうしたらいいのかわからん」
「なんでゴリラと魚とは初手グッドコミュニケーションに導けんのに、人間相手で失敗すんだよ!」
「あいつらが良い奴だったからかな」
へへと、鼻の下を人差し指でこするレンジに、コウは額に青筋を浮かべた。
しかし突然、コウは何かに押し出されたようにしてその場に転んでしまう。
「いったぁ……なんなのさぁ――」
「先生、もう良いじゃないっすか、怪しい奴らみたいですし、やっちまいましょうよ。俺たちの、魔法でね」
「こ、こらイシュリ! まだ誰かもわからん人を――」
「おい……」
「――」
途端、レンジたちを囲っていた人々が肩を竦み上げた。
その瞬間、レンジとリンの姿が消え、コウに向かって棒を向けていたイシュリという青年の両側面……顔面に、拳と鉄パイプが伸び、メキメキと彼の顔を砕き、レンジとリンはそのまま拳と鉄パイプの向きを変えて大地に彼を叩きつけた。
「へ――」
ヒゲの彼が素っ頓狂な声を上げた時にはもう、日野畑高校の問題児2人が臨戦態勢に入っていた。
「……あれ、俺の兄貴なんだけれど」
「お前たち、覚悟はいいか?」




