半日授業からこんにちは
「……」
「……」
「むぅ」
半日授業――というより、学校中に広まった最早収拾が付けられなくなるほど発展した喧嘩により、午後の授業がつぶれ、教員たちが鎮静に乗り出す前に学校を出てきた恋慈、幸之信、そして幸之信の双子の弟――伊吹 凛之丞。
日野畑高校の妖精、阿吽の凶器、血しぶきの妖精などなど見た目に反して物騒な名前が付けられている。
つなみに幸之信は阿吽の癒しと呼ばれることもある。
そんな凛之丞は学ランは着ずに暑い時期はワイシャツとスカートだけで、寒くなってくるとカーディガンを羽織っている。
どちらも学校指定ではなく、勝手に着ているだけである。
凛之丞は髪が長く、幸之信と同じ赤茶の髪色でも凛之丞は黒っぽく、幸之信は明るい赤っぽい色をしている。
さらに違いを挙げると、凛之丞は前髪が右側にかかった目隠れで、幸之信は左側に前髪がかかっている。
その前髪には凛之丞が花の髪留めで、幸之信は四葉のクローバーの髪留めを使用している。
それと同じで右利きが凛之丞、左利きが幸之信である。
そんな伊吹兄弟だが、凛之丞が頬を膨らませて恋慈の腰に引っ付いており、幸之信が頭を抱えていた。
「むぅ、とっきーと兄貴、俺に何か隠してるでしょ?」
「そんなことないぞ、俺が凜に隠し事なんてするわけがないだろう。全部を話していないだけだ」
「それを隠し事って言うんだよぅ! この間とっきーの家に泊まってから兄貴が妙に変だし、隠してたけれど肩に怪我してたし」
「うっ」
顔を逸らす幸之信を凛之丞がじっと見つめる。
「説明が大変だったから言わなかっただけだ。それに幸の怪我はもう治っているそうだぞ」
「1週間前の話だよ?」
凛之丞が訝しんで幸之信に軽く触れるのだが首を傾げた。
「あれ? 1週間前は傷が残ってたのに」
「翁の薬様様だな」
「うん、本当に怖いくらいに治りが早かったわ」
恋慈と幸之信はあの魚人たちを思い出しているのか、顔をほころばせた。
しかしそれを凛之丞はリスのように頬を膨らませてみており、くっ付いている恋慈の腰を強く抱き、ジッとその顔を恋慈へと向けた。
「……そんな顔をするな凜、お前にも機会があるかもしれん」
「ダメダメ、凜ちゃんが危ない目に遭っちゃうかもでしょ」
「幸、お前より凜の方が安心するんだが」
「なんだと~!」
「も~、とっきーと兄貴だけでわかりあってさ――俺もとっきーと遊びたい」
「凜ちゃん、頼むからもっとまともな人とお付き合いしなさい。こいつはダメです」
「駄目ってなんだダメって」
「え~……とっきーと兄貴と遊ぶのが一番だよぅ。最近はとっきーに影響されてエッチな本も見るよ!」
幸之信が頭を抱えているが、凛之丞はとにかく純粋に楽しむことしか考えておらず、それ以外のことには無頓着――女装が趣味であるが、それはただ女の子の服が似合うから着ているだけで、女の子になりたいわけではない。それを幸之信が止めているのだが、お髭でも生えてきたら止める。の一点張りで話にならず、いつも頭を悩ませている。
「まあそれは構わんが、お前がエロ本を買うとはな、大きくなったものだ――」
「ううんとっきーの家で見つけた」
「貴様ぁ! なんか数が減っていると思ったわ!」
「とっきーの隠し場所はわかりやすいからね、簡単に手に入るよぅ」
顔を手で覆う恋慈に、してやったり顔の凛之丞、そして顔を真っ赤にして縮こまっている幸之信である。
「見てみろ凜、あれがお前に足りないものだ。その形で恥じらいがないのはどうかと思うぞ」
「むしろ高校1年でその反応をしている兄を持っていることが恥ずかしいよ兄貴」
「……そ、そういう話は、お兄ちゃんまだ早いと思います」
恋慈と凛之丞はそれぞれにため息をつき、赤い顔を震わせている幸之信を見ていた。
すると3人の周囲の空間が歪んだ。
「おっ、来たな」
「って今かよ!」
「え、なにこれ――」
恋慈は慣れたもので、視界が歪んだ途端、拳を握って構えをとった。しかし幸之信は凛之丞が心配なのかオロオロとしており、凛之丞は警戒するように意識を周囲に向けていた。
「ほい到着――」
「誰だ貴様ら!」
世界の歪みが消え、レンジたちが次に見た光景――何故か大量の人間に囲まれており、その誰もが手に短い棒を持っていた。
「なるほど、こういうパターンか――」
「冷静に言ってんな!」
「え~っと?」
こうして、レンジたちの異世界転移3日目が開始されたのだった。




