ケダモノの本懐
「……」
「……」
魚人たちの村の現状を把握したレンジとコウはイルムと親父殿と一緒に村を出て洞窟内を歩いていた。
村を襲い、子どもたちを攫った連中を追っており、その口数は少ない。
レンジはコウと親父殿は村で待っているようにと提案したが、2人とも頑なにそれを拒否しこうして一緒に脚を進めている。
「コウ、お前歩きづらいだろ」
「うるさい、俺は戻んないよ」
「強情な奴め」
「……レンジが前を歩いてるんなら、俺は後ろを歩かなきゃダメだろ」
「はいはい、いつも頼りにしてるよ」
「ん」
コウはレンジの袖をつかんだままだが、確かに強い意思をその瞳に宿していた。
そんな2人にイルムが小さく微笑んだ。
「2人は本当に仲がいいのだな」
「別にそんなんじゃないよ。レンジの馬鹿野郎は放っておくとすぐどっか行くし、すぐわけわかんないことになってるから、こうやって見張ってなきゃなんないんだよ。俺の気苦労わかってくれる?」
「ぎょぎょぎょっぎょ」
「……む、なんかなんとなく今言ったのはなにかわかったかもだけれど――レンジは相棒の俺が見てないと危ない目に遭うの、それだけ!」
イルムと親父殿がふわと空気を柔らかいものにした。
伊吹 幸之信という男は臆病だが、その小さな心臓には小さい形にも確かな正義心と優しさを持っており、日野畑高校ではレンジの背に隠れてばかりだが、思い切った時の爆発力には目を見張るものがあるという評価をもらっている。
不貞腐れたように頬を膨らませているコウに、レンジは鼻を鳴らして笑うのだが、ふと香ってきたにおいに顔をしかめる。
するとコウも気が付いたのか、その匂いに言及する。
「ん~? なんか変な匂いがするな――」
「――」
レンジがハッとした顔を浮かべ、咄嗟にコウの目を手で覆い、空いた手で彼を引き寄せた。
同じ時、イルムと親父殿が顔を手で覆い、歯を鳴らして息を荒げた。
「目を開けるなよ」
「な、なんだよ――」
「良いから言う通りにしろ!」
レンジはゆっくりとした歩みで、コウを慎重に引っ張っていく。
そしてそれを通り過ぎる際、注意深く観察し、現状を把握しようとする。
何故。と、ぶち殺す理由を心にとどめ、レンジはちらと魚人2人に目をやる。
「イルム、翁、今は抑えろ。冷静になれとは言わん、抑えるだけでいい」
「……ぎょ、ぎょぅ」
体を震わせる親父殿の背にそっとイルムが手を添え、小さく息を吸った。
「抑えろ。か。なるほど――レンジ、君の抑え方は爆発させることを前提にしているようだが?」
「イルム、ぶちかますから抑える意味があるんだぞ」
「……俺たちのために怒ってくれてありがとう」
イルムも親父殿もレンジが抑えに抑え、それでも漏れ出る殺気に頭が冷えたのか、脚を進ませ始めた。
「――お前たちのやり方で弔ってやってくれ」
「――っ」
目を閉じてレンジの背に着いてきていたコウの肩が跳ねた。レンジの手をキュッとつかみ、体を震わせて閉じている瞼からも涙があふれている。
「コウ、ありがとう。俺たちは平気だ――」
「平気なわけあるかよ! なんだよ、意味わかんねえ……なんでそんなことするんだよ」
「その答えも、この先だ」
レンジは片瞼を痙攣させ、指を握ったり開いたりしながら頻りに骨を鳴らし、額の血管はすでに破裂しそうであった。
「不愉快だ、胸糞悪い」
レンジが睨みつける先――複数人の人間の気配。
彼らが脚を踏み込む先には人ではなく鬼がいる。最早レンジの頭には対人戦は想定されていない。




