戦う意思を湧き上げて
「2人とも、まずは俺たちの村に来てもらいたい」
「それは構わないが、俺たちがいても平気なのか? 人間に襲われたのだろう? わざわざ恐怖心を刺激する必要もないだろう」
「気遣い感謝する。それなら大丈夫だ、親父殿が――」
「ぎょぎょっぎょーぎょぎょ」
親父殿が妙なステップを踏み出したことで、レンジとコウが真顔で彼を見やる。
「盆踊りか?」
「熱にうなされている時に見る悪夢だろ」
「つまり暗黒盆踊りか」
何がつまりなのかを思案するコウをよそに、2人の姿が見る見るうちに魚人のような見た目になり、鱗が生えてきた。
「ほ~、姿を変えられるのか」
「わぁ鱗だ。でもこれ――」
「そう見せるだけの幻覚だ」
コウが自身の腕に生えた鱗に触れるのだが、それに実体はなく、触った感触もただの肌と変わっていない。
イルムの言う通り、ただ幻を見せるだけの魔法なのだろう。
「さっ、村はこっちだ」
そうしてレンジとコウはイルムたちの住む村に案内されたのだが、村の内部はあちこちに戦いの傷跡が残っており、ところどころにいる魚人たちは生気のない顔を伏せていた。
「これは――」
「――」
コウがはたと駆けだし、カバンから包帯やらの手当て道具を取り出すと、怪我をしている魚人たちの手当てを開始した。
戦っていなかっただろう者たちは生きる気力を失くしており、戦いに赴いただろう者たちは体を震わせて痛みを堪えていた。
彼らは負けたのだ、敗北者には敗北者が通る道しか残っていない。
「……」
「一瞬だったよ。奴らは突然現れ、俺たちの領域を侵していった」
「相手はそんなに強いのか? お前たちだって戦えるだろう」
「……レンジが俺たちのことをどう認識しているのかはわからないが、我らは海の民だ」
「そういえばここは陸だな――いやというより、なぜおまえたちはこんなところに?」
レンジの問いにイルムは顔を伏せてポツリと話し出す。
「住処を追われた俺たちは、こうして陸に上がってくるしかなかったんだ。ここはいい場所だ、陸地でありながら海の気配がする。だから俺たちはここでも心地よく暮らしていけた。だがなレンジ、ここはやはり陸なんだ――俺たちは、戦えない」
「……そういうことか」
海こそが彼らの領域、戦いも海の中で培われたものであった。故に本来の力を出すことが出来ず、いいようにやられてしまったのだ。
レンジが顔を伏せると、治療をしていたコウが戻ってきた。
しかしその顔は今にも泣きだしそうなそれで、レンジはそっと彼の頭に触れた。
「コウ?」
「……ねえ、イルム」
どこか震えた声のコウに、レンジは首を傾げる。
「どうした?」
「俺さ、お前たちがどうやって産まれてくるかは知らないよ。でも、産まれた瞬間から大人ではないよね」
「――っ」
レンジは辺りを見渡し、奥歯を噛みしめて額に青筋を浮かばせた。
「子どもは――?」
ポロポロと涙をこぼし始めるコウの肩をレンジは叩くのだが、コウからの問いを受けたイルムは握りこぶしを作り、噛み千切るほどに自身の唇を嚙んだ。そして首を横に振り、声を上げた。
「皆攫われた」




