生粋の馬鹿者ども
「……相手は人間だったのか」
「お前だからさぁ!」
イルムと親父殿から離れたレンジは初っ端に頭を抱えた。
その人間が敵だという情報はおよそ親父殿が話していたのだろう。しかしレンジが適当に会話をしていたせいで聞き逃し、さらに調子に乗って手を貸すと話してしまった。それ故にレンジはため息を吐くしかなかった。
「いやいきなり会話しだすからびっくりしたんだけれど、お前もしかして何1つわかってなかっただろ」
「当たり前だろうが、俺は日本語しかわからん」
「なんでお前あんなキメ顔ですらすらと勇者みたいな発言したの?」
「……素質。ではなかろうか」
「うるせえよ」
がっくりとうな垂れるコウの肩をレンジは叩きながら、そっと魚人2人に意識をやった。
「しかしどうにも切羽詰まっているようだな」
「そうなの?」
「先の戦闘だが、翁からは確かに殺意を覚えた。人間を相当恨んでいるのだろうな」
「その恨まれている魚からよくもまあ信頼を勝ち得たなお前は」
「さっき言った通りだ。翁から殺意は覚えたが、奴の戦いにはこうなんというか、誰かの意図を、強迫観念にも似た必死さがあった。自分のためじゃない、自分の命を投げ出してでも戦うという強い意思だ。俺はただ、それじゃああんまりだと思っただけだ」
「……見ず知らずの魚に優しいのな」
「茶化すな。イルムと翁とは今日初めて出会ったが、お前は俺たち日野畑高校の生徒信条を忘れたのか」
コウが苦虫を噛んだような顔を浮かべ、深いため息をついた。そして彼は咳ばらいを1つすると口を開く。
「1つ、馬鹿は馬鹿なりに愛想よく」
「1つ、馬鹿なりに貫き通す信条を」
「1つ、馬鹿の拳も天まで届く」
「1つ、馬鹿らしく笑って死ね」
「1つ――」
レンジとコウはちょうどこちらに歩みを進めてきた魚人2人に歯を見せた最大級の笑顔を向ける。
「「こんな馬鹿に関わったことを後悔させる馬鹿であれ」」
「――」
ポカンとするイルムとは裏腹に、親父殿が喉をくつくつ鳴らして笑い始めた。
「ぎょっぎょっぎょっぎょっぎょ!」
「決めたか?」
「……ああ。ところでお前たちはそんなに馬鹿と呼ばれたいのか?」
「馬鹿は相手を選ばん。馬鹿らしくあってお前たちの手を握り返せるのであれば俺は馬鹿と呼ばれてもいいさ」
イルムがふっと笑みをこぼし、レンジとコウに手を差し出した。
「レンジ、コウ、俺たちを助けてくれ」
「任せろ。日野畑高校1年3組朱鷺海 レンジの力、存分に貸してやろう」
「――しゃあない。巻き込まれちまったし、レンジが行くなら付き合ってやるよ」
レンジとコウはイルムの手を握り返し、互いに笑いあったのだった。




