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朱鷺海 恋慈の異世界⇔現代、拳で語れ!  作者: 筆々
2章 陸の海に獣は不運を引っさげて

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聞こえる声と聞こえない声

「レンジ、と言ったか」



「ああ、朱鷺海 レンジ。見ての通り学生だ」



「とき……? すまない、人の言葉を全て知っているわけではない。それで早速なのだが、君たちはなぜここに?」



 魚人のイルムと名乗った彼が少し行ったところにある広間にて、ちょうど座れそうな岩にレンジとコウを案内し、そこで彼と親父殿、レンジとコウとで向かい合って話を始めている。

 そこでの話し合いで、イルムはレンジたちの事情について尋ねた。



 しかしレンジは未だ背中に引っ付いているコウと顔を見合わせた。

 事情があるとはいえ、それは事情がないに等しい(・・・・・・)



「ふむ……ふざけているわけではないというのを念頭に置いてもらいたい」



「わかった、聞こう」



 イルムの返事に、レンジは肩を竦ませた。



「わからない。だ。俺たちも何故ここにいるのかわからないんだ」



「……どういうことだ?」



「見てわかる通り、明らかにこんな洞窟を探索する風には見えないだろう? 俺たちはさっきまで別の場所にいて、突然ここに飛ばされた? そんな感覚がした」



「……」



 思案顔を浮かべてイルムが親父殿と話していたのだが、その親父殿がレンジの手をそっと握る。



「ぎょぎょ、ぎょぎょぎょっぎょ」



「うん? ああうん、さすがだな、知らなかった」



「ぎょぎょ、ぎょっぎょ」



「すごいな」



「ぎょぎょ、ぎょぎょぎょ」



「センスある――」



「合コンさしすせそやめぇや! お前ゴリラ相手にもそれで乗り切ったんじゃないだろうな?」



「そうだが?」



 レンジの背中から顔を出しつつ、頭を抱えるコウだったが、すぐにイルムがどこか申し訳なさそうな顔を浮かべた。顔色の変化はあまりよくわからない。



「すまんな、親父殿は訛りがひどくて――」



「これ訛りだったの! 言語として機能してないだろ!」



 イルムに向かってツッコんだコウだったが、すぐに顔を赤らめレンジの背中に隠れてしまう。



「いやしかし、レンジは見事なものだな。親父殿の訛りも理解しているとは」



「ん……? ああ、まあな!」



「……お前勢いだけでその場をしのごうとする癖を治せよぅ」



 レンジはコウに背中を叩かれながらも改めて親父殿に目をやる。すると彼は小さくうなずき、イルムに話しかけた。



「なるほど――レンジ、コウ、君たちはもしかしたら誰かにはめられたのではないかと親父殿は言っている」



「はめられた?」



「人の魔法使いには転移の魔法を使える者がいると聞く。レンジのその実力、もしや君は相当な――いや、人の世での英雄ではないのかね? それだけの力を持ったものを排除しようとする者がいてもおかしくはない。ここは人にとっての未開の地だ、そんな奴らに貶められたのではないか?」



「うんうん……そうかもしれん!」



「だからぁ!」



 英雄と呼ばれて調子に乗ったのか、レンジはしたり顔を浮かべていた。しかしすぐにコウに耳打ちするように口を開いた。



「ここは乗っておけ。別の世界から来たなんて言ってみろ、頭おかしいと思われるぞ」



「……まあ、うん、確かに」



 レンジはコウの頭をポンポンした後、イルムに意識を向けた。



「こっちの事情はこんなところだ。それで、そちらはどういう事情だ?」



「む、それは――」



「ぎょぎょっぎょっぎょ、ぎょぎょぎょ、ぎょぎょ! ぎょぎょ! ぎょっ! ぎょぎょぎょっぎょ!」



「なるほど――翁、それは随分と悔しい思いをしたな。だがお前が命を張ってどうする、若い命と老いた命を天秤にかけることがそもそも間違っているんだ。お前は生き残ってしまったなどと思っているかもしれないが、生かしてもらったんだ、寿命を全うすることがお前の責務だろうが」



「ぎょぎょぅ……」



 レンジの言葉に親父殿は涙を流し、その水かきのついた手のひらで顔を覆った。



「翁よ、お前のその涙、俺は確かに受け取った。ここで会ったのも何かの縁だろう」



「ぎょっぎょ? ぎょぎょ!」



「俺はこうしてお前たちを知った。手を組み合わせたのなら俺たちはもう友だちだ」



 呆然とした顔を浮かべる親父殿に、イルムが待ったをかける。

 それは当然だろう、突然現れた、見ず知らずの、しかも他種族をどうして助けることが出来るのか――イルムの疑問はもっともだろう。



「何故だ、レンジ。相手は人間だぞ。それをお前は――」



「それが何だというんだ。俺は普段から話の通じない奴らと拳を交えているが、そのおかげか言葉よりも信用しているものがある――闘争だ。戦いとはもっとも純粋なものだ、心だ、魂だ。お前たちの戦いに悪意はなかった。俺が激情を漏らしたのはコウが危なかったからだ。お前たちの戦いには俺が手を差し出したいと思える意思があった」



「……」



「ぎょぎょ――」



 レンジは息を漏らすと、そっとコウの体を回し、その背中を押す。



「どうしたいかは2人で決めろ。俺たちはそっちで待っている」



 そう言って、レンジはコウの背中を押しながら彼らから距離をとったのだった。

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