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朱鷺海 恋慈の異世界⇔現代、拳で語れ!  作者: 筆々
2章 陸の海に獣は不運を引っさげて

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異世界初言語

「――」



 レンジは自身の背中に引っ付いて体をかがめるコウの頭を撫でる。



「撫でんなぁ」



「……」



「――!」



 レンジはジッと彼を見つめるのだが、その視線にコウはハッとなり、そっとポケットをまさぐり、そこから何かを取り出してレンジの後ろ手を握る。



「ぎょっぎょぎょー!」



「抜きな、俺の方が速いことを証明してやる」



 魚人が弓を引き矢を射る動作に入ると同時に、レンジがコウから手渡されたパチンコ玉を親指の爪と人差し指の腹で挟む。



「『嘴針(はしばり)桔突(きつつき)』」



 右手から撃ちだされたパチンコ玉が魚人の射った矢の矢じりにかすれ、軌道を逸らした。



「ぎょ!」



「遅い!」



 左手に潜ませていたパチンコ玉をレンジは瞬時に射出し、魚人の弓を握る指を撃ち抜いた。



「ぎょぎょーっ!」



 魚人が弓を落とした隙をレンジは見逃さず、前傾姿勢をとってふわと柔らかく脚を踏み出した。



「『猫脚(ねこあし)隼常夜(はやとこよ)』」



 重さを感じられない足踏みで、瞬く間に魚人との間合いを詰めたレンジは拳を魚人へと向けたのだが――。



「――っ!」



 レンジはすぐに飛び上がり、別の方向から矢が飛んできたのを躱すとさっきから戦っていた魚人の背に回り、彼の首筋に爪を立てた指を添えた。



「――」



「ぎょぎょ……」



「一応言っておく。お前がコウに矢を放つより、俺がこいつの首を落としてコウの正面に出る方が速いぞ」



「……」



「え、あ? 俺今狙われてる?」



 コウがぴえと瞳に涙をためたその瞬間、レンジから放たれるどす黒いほどの圧倒的な戦闘圧――殺意、狂気、殺気、野生、本能、そのすべてを混ぜ込んだかのような百獣が百獣たらしめるケダモノの気配。



「ぎょ、ぎょ……」



 レンジに捕らえられている魚人がその圧を間近で感じ、体を震わせて呼吸を荒げていた。

 それを見たからなのかはわからないが、コウに伸びていた意識がふっと消え、どこかから声が聞こえてくる。



「親父殿、その者たちは敵ではない。もしその者たちが先ほど我らの集落を襲った者だったのなら、今ごろ俺たちは生きてはおるまい」



「ぎょ、ぎょっ」



「そこの者! 親父殿が無礼を働いた、俺は武器を収める。どうかその牙をしまってはくれないか?」



「……」



 レンジはふっと体から力を抜き、魚人から体を離すと、コウに向かって歩み出した。



「う~~~」



 するとコウがレンジに駆け寄り、抱き着くことはなかったが、レンジの正面で頬を膨らませて瞳いっぱいに涙をためてプルプルと体を震わせていた。



「泣くな泣くな、男の子だろう」



「う~~~」



 レンジに頭をポンポンされ、コウは瞳から涙を流さないように堪えていた。

 コウに向かってレンジが苦笑いを浮かべていると、洞窟内の岩の影から誰かが下りてきた。

 レンジはそっとそちらに目を向けると、これもまた魚人らしき者が出てきた。



 しかし彼は先ほど戦っていたものと比べると随分と体つきががっちりしており、およそ若者なのだろう。



「……そちらはもしや年寄りだったか? すまないことをした。お前たちを見慣れていないからか判断できなかった」



「いや、こちらも突然敵意を向けて申し訳なかった。俺の名はヤチル村村長の子――イルムだ」



「レンジという。それでこちらの怯えているのが――」



「……」



 レンジの背にピタリとくっ付き、怯えた表情をイルムに向けるコウに

レンジは肩を竦ませた。



「コウだ。すまないな、戦場に慣れていないんだ」



「怖がらせたのはこちらだ。しかしこちらにも事情があった、それを汲んでくれると助かる」



「謝罪を受け入れる。こっちも訳アリだ、もしよかったら交渉の席を設けたい。俺たちは生きていられればそれでいい」



 イルムが親父殿の傍に行き、一言二言交わすと、レンジの提案を受け入れたのだった。

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