第95話 case 4-猪木ではなく、志村けん
次の日。
1時間目と2時間目の間の休み時間。
央吾は昨日の佐々木の表情が気になり、3組に向かい階段を上がっていた。
階段の踊り場で颯爽と降りてくる佐々木とぶつかりそうになった。
「わっ、央吾君。おはよ〜」
昨日の休み時間と何ら変わらない可愛い笑顔の佐々木がそこにいた。
「あ、おはよー」
「もしかして、3組に来てくれようとしてた?」
「う、うん」
「ありがとっ、私も今央吾君のとこ行こうとしてたの」
「そうなんだ」
「昨日の藤棚、行こっ」
央吾は昨日の佐々木の別れ際の表情が気になっていた。
昨日と同じベンチ、同じ位置に座った。2人の肩も昨日と同じくゼロ距離だ。
「宿題は?ちゃんとした?」
「したよ。ちゃんと」
「ほんとかなぁ〜?怪しいなぁ〜?」
佐々木はニヤけ顔で首を傾げている。
(ヤバァ〜〜、可愛い過ぎるぅ〜〜〜)
思わず央吾は藤棚を見上げた。
昨日、空元気だと思っていたのは勘違いだった様だ。佐々木は何も変わらない。昨日のままの彼女だ。
「昨日の別れ際…、…ごめんね。暗かったよね」
急に深刻そうな暗い顔…
(やっぱり思って通りだったのか?)
「う、う〜ん。…、…ちょっと…、心配になった…かな。大丈夫?」
「ごめんごめん、全然大丈夫なんだけど…、…
お父さんが結構厳しいから…」
「そうなの!?」
「私ひとりっ子だから…彼氏出来たなんて知ったらどんな反応するか…」
「マジ!?」
「うん、マジ。元ラガーマン」
「バリバリの体育会系かぁ…」
「180cm、85kg。未だに筋トレしてるし」
「そ、そうなんだぁ〜」
焦りを隠す様に遠くを見つめる央吾。
「もしも、家の前まで送ってもらって、お父さんと鉢合わせしたら、どうなるか…」
「ど、どうなるの?…、…、…」
佐々木は目を細め、眉間にシワを寄せ、黒目は目一杯上に、そしてアゴをしゃくらせ、ゆっくりと首を左右に振った。
「ハハハハハ、どう言う表情!?ハハハハハ、い、猪木!?」
佐々木はスッと表情を元に戻し、
「違う、違う。だっふんだ、でしょ。志村けんの」
そう言うと再度さっきと同じ顔をした。
2人の肩はゼロ距離のため、2人の顔も当然、読んで字の如く、目と鼻の先だ。
「これ、これ。だっふんだ、でしょ?」
「ハッハッハッ、いやいや違う違う。それは猪木でしょ」
央吾の目の前で繰り返される、佐々木の可愛い顔と猪木変顔。
央吾は腹を抱えて笑った。
「アッハッハッハッ」
「じゃあ央吾君、だっふんだ、やってみてよ」
「オッケーオッケー、だっふんだ、は…、こう」
央吾はしっかりと王道だっふんだをやった。
「ハッハッハッ、ハハハハハ、ハハハハハ」
「これが、だっふんだ、です」
「こう?」
佐々木がまた自称だっふんだ、をやった。
「違う違う、しゃくれない、ハハハハハ」
「ハハハ難しいなぁ」
「しゃくれの癖が取れてないよハハハハ、って言うか、だっふんだ、は変なおじさんだから、今の会話の流れだと、お父さんが変なおじさんになっちゃうよ」
「変なおじさんでは…ないね、ハハハ」
どうやら佐々木の言う通り、昨日の別れ際の暗い表情は、ただ央吾という彼氏の存在が父にバレたらどうなるのか?の心配であった様だ。




