第94話 case 4-空元気?
一歩一歩を確かめる様に、2人はゆっくりと歩いている。と言うかほぼ止まっている状態であったが、佐々木が完全にその歩を止めた。
「そう言えばさあ…、…」
「ん?何?」
「央吾君って、これまでに彼女いなかったの?」
「いない、いない。いた事ないよ」
「ほんとにぃ??あんなにモテてるのにぃ??」
「え?いやいや、モテてないよ、全然」
「ほんとかなぁ??」
そう言うと佐々木は央吾の顔を覗き込んできた。
その目は、おふざけモードではあるものの、しっかり嘘を探している。
高校生になってからプチフィーバーしている事に多少の自覚があった央吾は、嘘をついていないにも関わらずおろおろとしていた。
「佐々木さんはどうなの?いたでしょ?彼氏」
「私もいないよっ、色黒いし…」
「そこ!?そこは全然関係ないでしょ」
「女子は気にするのっ、…、…、…央吾君は…、気にならない…?」
「全く!!」
「そっか、それなら良かったぁ。冬になるとね、少し白くなるからね」
佐々木は「嫌いにならないで」と言う一心で主張している様に見えた。
「大丈夫だよ、そこ全然気にしてないから」
「ほんと?」
「ほんと、ほんとハハハ」
「ん〜、じゃあその言葉、信じます」
「はい、信じてっ、下っさいっ」
そう言いながら右肩で佐々木の左肩をグッと押した。
少しよろけた佐々木も今日一番の強さで押し返す。
「あっりがっとっ」
お互いがよろけながらも手は離さず、引っ張り合いくっつき合い、また笑った。
「次の土曜日って部活?」
「うん、野球部は昼から。テニス部は?」
「テニス部は休み。じゃあ午前中は図書館で勉強だね」
「了解しました!」
「はいはい、楽にして構わんよ」
佐々木は低い声でおどけている。
「佐々木先生、宜しくお願いしますっ」
「ハハハハハ、アハハ」
央吾は敬礼しながら、佐々木に向かって一礼した。
そこから数十秒、更にゆっくり歩きながら肩ぶつけ合いモールス信号を楽しんだ。
「あっ、ここでいいよ」
自動販売機が二つ並んだ曲がり角。
「家ここ?」
央吾は自販機のすぐ裏にある家を指差して聞いた。
「ううん、あっちの奥の家」
佐々木は30m程先の大きな三角屋根の北欧風の家を指差した。
「家の前まで送るよ」
「ううん、ここでいいよ」
「すぐそこじゃん、行くよ」
「うん、すぐそこだからここでオッケー」
佐々木の表情が急に曇った様に感じたが、あまりしつこいと嫌われるかも、そう思った。
「じゃあ、ここでいい?…、…すぐそこだけど、気を付けてね」
「うん、ありがとう」
央吾は持っていた佐々木のスポーツバックを返した。が、それを受け取った佐々木は央吾の手を離さない。
「…、…?…どうしたの?大丈夫?」
「う、うん。明日も一緒に帰れるかな?」
「もちろん」
「ありがとっ、じゃあまた明日ね。バイバイ」
「バイバイ」
央吾には佐々木の表情が目一杯振り絞った空元気に見えた。




