第92話 case 4-モールス信号
コンビニから更に東側へ。
佐々木の家に向かう2人。
「家までどれくらい?」
「10分弱ぐらい。央吾君、時間大丈夫?」
「全然大丈夫。帰ってもする事ないしね」
「宿題をしなさいハハハハ」
「確かにっ、そうでしたハッハッ」
野球道具の入ったミズノの大きな黒色のカバンを左肩から斜めがけし、左手にはほぼ何も入っていないスポーツバック。一応右手は空けている。
テニス道具の入ったヨネックスの白色のリュックを背負い、右手には勉強道具のしっかり入ったスポーツバック。左手は空いている。
昼休みにはなぜか自然に手を繋げたのに、今は意識し過ぎなのか、なかなか繋げない。
「スポーツバック持つよ、俺の軽いし」
央吾は右手を差し出した。
「いいよ、いいよ。重たいし。…ん?何でそんなに軽そうなの?教科書は?」
「う〜ん、部室…、…、です。ハハ」
「ハハ、じゃないよぉ、もぉ〜」
央吾たち野球部員は野球部ですと主張している黒い大きなカバンを、毎朝部室に置きに行く。
そこで時間割りを合わせ、教室へ。
それがルーティン。
「筋トレ、筋トレ。俺も握力鍛えないとね」
そう言いながら央吾は佐々木のスポーツバックを奪う様に持った。
「あっ、話題変えてきたなぁ〜、もぉ〜、…、…じゃあお願いしよっかなぁ、ありがと」
央吾のカバンの軽い理由に若干呆れ顔だったが、許してあげよぉ〜と言わんばかりの表情になり、笑顔になった。
「そう言えば、ユージロー君すごい握力だった?」
「めちゃくちゃ痛かったよっ、72は異常だから」
「ハハハ、央吾君の顔凄かったよハハハハ」
「マジ!?俺も握り返したけど、全然ダメ。勝てる気しなかったもん」
「央吾君はどれぐらい?」
「う〜ん、多分50ちょいぐらいかな、佐々木さんは?」
「分かんないなぁ、女子の中では強い方だと思うけど」
「どれどれ、握力を計測してあげましょう」
央吾が右手を差し出すと、直ぐに佐々木は手を握ってきた。
「うーーんっ!!」
「おっ、強い強い」
「うーーーーんっ!!」
佐々木は両手で力強く握ってきた。
「痛たたたたっ!」
「ごめん、痛かった?」
「うそ〜〜〜〜〜ぉ」
変顔で佐々木をからかった。
「もうっ!」
「ごめん、ごめん。でも、さすがテニス部、強い方じゃないかな、でも痛くはないけどハハハハ」
2人は自然と手を繋ぎ歩き出した。
お互いが手を繋ぐタイミングを見計らっていたのか、わざとらしかった央吾の作戦も難なく成功した。
手を繋いでからはしばし肩でのモールス信号が開始された。当然2人ともモールス信号など知っているはずもないが。
肩をぶつけ合うだけで、会話が成立する。
トン、トントン、
…、…、…
ドン、ドンッ、
…、…、…
トントン、ドン
2人は、この時間を楽しむ様にゆっくりゆっくり歩いた。




