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人間体験  作者: hi07


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第89話 case 4-心の生傷

(佐々木さんと一緒に帰れる!)

そう思うと、央吾の心はこれまで以上に晴れやかになり、温もりすら感じられた。


「練習終わるの結構遅いけど…大丈夫?」


「うん、大丈夫。20時ぐらいでしょ?私も部活終わった後、塾に行く予定だから」


「じゃあ、市役所の横のコンビニに20時ぐらいでいい?」


「うん、オッケー」


同時に2人が立ち上がった。

央吾と佐々木は顔を見合わすと同時に笑い出した。

全く同じタイミング、全く同じ動き、顔を見合わせた時の首を振る速度も同じ、キョトンとした表情も同じ、全てがシンクロした。


「「アハハハハ、ハハハハッ、ハッハッハッ」」


2人は笑った。お腹が痛くなる程笑った。

2人にしか分からない事で2人だけで笑っている。それがたまらなく嬉しい。


心の底から温まる。胃の裏側あたりから、微かだが、でも確実に自然と修復されていく。

涙が出て来た。

お腹を抱えながら並んで校舎に入った。


「さっ、さハッハ、佐々木さんっ、涙出てるじゃんっ」

「そう言う、ハハ央吾君こそ、なっハハ、泣いてるじゃん」


校舎に入っても2人の笑いは止まらない。

腹筋が悲鳴を上げる頃、なんとか落ち着きを取り戻した。


「あぁ〜笑った笑った。何でだろ、こんなに面白いの」


央吾は息を整えながら涙を拭った。


「本当だね、こんなに笑ったの何年振りだろ」

「じゃあ、次はコンビニで」

「うん、待ってるね」


そう言うと佐々木は、また軽ぅく階段を駆け上がって行った。


央吾の心をえぐっている、深い深い傷。

その生傷の治癒は不可能と判断し、忘れる様に、思い出さない様に、見ない様に放置してきた。

その傷が今、瘡蓋になる前の結痂の状態にようやくなり始めていた。



練習が終わると央吾はそそくさと片付け、着替えを済ませて部室を出ようとした。


「あれ?央吾、今日はコンビニ行かねぇの?」

「いや、行くよ。佐々木さん待ってるから」

「おぅ、おぅ、おぅ、熱々だなぁ」

「いいなぁ〜央吾」

「3組の子だろ?」

「あぁ、タケシと同じクラスの佐々木さんな」

「今日の昼休みは熱かったよなぁ」

「バスケ部に勝ったんだろ?」

「そうそう、んでその後ユージローが急に告りだしてなぁ」

「央吾の“ちょっと待ったぁ〜!!”は笑えたな」

「いやいや、全然笑うとこじゃねぇから」

「じゃあ、ユージローにも勝ったって事か?」

「やるじゃねぇか、央吾」

「ヒューヒューだよっ」

「牧瀬里穂かよっ!昼休みも同じ事言ってた奴いたなっ!ってか、何でもう全員知ってんだよ」


今日体育館に居なかったメンバーにも既に周知されていた。

こんな時の伝達の迅速さは尋常ではない。

恋に飢えた男子高校生なら至極当然の事である。


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