第89話 case 4-心の生傷
(佐々木さんと一緒に帰れる!)
そう思うと、央吾の心はこれまで以上に晴れやかになり、温もりすら感じられた。
「練習終わるの結構遅いけど…大丈夫?」
「うん、大丈夫。20時ぐらいでしょ?私も部活終わった後、塾に行く予定だから」
「じゃあ、市役所の横のコンビニに20時ぐらいでいい?」
「うん、オッケー」
同時に2人が立ち上がった。
央吾と佐々木は顔を見合わすと同時に笑い出した。
全く同じタイミング、全く同じ動き、顔を見合わせた時の首を振る速度も同じ、キョトンとした表情も同じ、全てがシンクロした。
「「アハハハハ、ハハハハッ、ハッハッハッ」」
2人は笑った。お腹が痛くなる程笑った。
2人にしか分からない事で2人だけで笑っている。それがたまらなく嬉しい。
心の底から温まる。胃の裏側あたりから、微かだが、でも確実に自然と修復されていく。
涙が出て来た。
お腹を抱えながら並んで校舎に入った。
「さっ、さハッハ、佐々木さんっ、涙出てるじゃんっ」
「そう言う、ハハ央吾君こそ、なっハハ、泣いてるじゃん」
校舎に入っても2人の笑いは止まらない。
腹筋が悲鳴を上げる頃、なんとか落ち着きを取り戻した。
「あぁ〜笑った笑った。何でだろ、こんなに面白いの」
央吾は息を整えながら涙を拭った。
「本当だね、こんなに笑ったの何年振りだろ」
「じゃあ、次はコンビニで」
「うん、待ってるね」
そう言うと佐々木は、また軽ぅく階段を駆け上がって行った。
央吾の心をえぐっている、深い深い傷。
その生傷の治癒は不可能と判断し、忘れる様に、思い出さない様に、見ない様に放置してきた。
その傷が今、瘡蓋になる前の結痂の状態にようやくなり始めていた。
練習が終わると央吾はそそくさと片付け、着替えを済ませて部室を出ようとした。
「あれ?央吾、今日はコンビニ行かねぇの?」
「いや、行くよ。佐々木さん待ってるから」
「おぅ、おぅ、おぅ、熱々だなぁ」
「いいなぁ〜央吾」
「3組の子だろ?」
「あぁ、タケシと同じクラスの佐々木さんな」
「今日の昼休みは熱かったよなぁ」
「バスケ部に勝ったんだろ?」
「そうそう、んでその後ユージローが急に告りだしてなぁ」
「央吾の“ちょっと待ったぁ〜!!”は笑えたな」
「いやいや、全然笑うとこじゃねぇから」
「じゃあ、ユージローにも勝ったって事か?」
「やるじゃねぇか、央吾」
「ヒューヒューだよっ」
「牧瀬里穂かよっ!昼休みも同じ事言ってた奴いたなっ!ってか、何でもう全員知ってんだよ」
今日体育館に居なかったメンバーにも既に周知されていた。
こんな時の伝達の迅速さは尋常ではない。
恋に飢えた男子高校生なら至極当然の事である。




