第87話 case 4-藤棚の下のベンチ
授業が終わり央吾は直ぐに声を掛けた。
「小嶋さん?」
小嶋はずっと不適笑みコロッケの顔で唇を歪ませている。
顔はずっと央吾を見ているが、無言のままゆっくりと離れていく。
央吾推し女子数名が固まり、全く同じ顔をして央吾を見ていた。
敵意は少々感じるものの、ふざけて遊んでいる様にも見えた…
「怖っ、全員同じ顔してるよ」
「小嶋さんだけ、唇が左に歪んでるけどな」
コタニがしょうもない事に気が付いた。
「そこはどうでも良いだろっ、何だよあの表情」
「ジェラシーだな」
「マジ?佐々木さんの事?」
「間違いねぇだろ、今まで散々央吾を優遇してたからな」
「女子怖ぇ〜」
「そろそろ、佐々木さん来る頃じゃねぇ?」
央吾の本能は即座に反応し教室の出入り口に向かった。
あのジェラシー女子軍団の視線に佐々木さんを晒す訳にはいかない。
「央吾君、宿題は?次、英語でしょ?」
可愛く央吾の顔を覗き込む佐々木。
(可愛いぃ〜〜〜)
央吾は佐々木を見るなり、ガチャピンよりも垂れ目になった。
「あ、うん。でも単語書くだけだから大丈夫」
何とか緩み切った表情筋を立て直した。
「そうなんだ、私英語得意だから、いつでも言ってね」
「そうなの?俺全然英語ダメだわぁ」
そう言いながら央吾は中庭へと歩き出した。
チラチラ後方を気にしながらも、それに釣られて佐々木も歩き出す。
藤棚の下にある雨に濡れていないベンチに座ると佐々木も不適な笑みを浮かべ、少し間を空けて喋り出した。
「女子たちでしょ?」
央吾は驚き佐々木の顔を見た。
「央吾君、モテるから。クラスの女子たち凄い顔で見てたしね」
「分かった?凄い変顔してたよね?」
「あ〜、女子に対してそんな事言ったらダメだよ〜」
佐々木は少し央吾をからかう様な口調だ。
「でもさぁ、美川憲一みたいに皆んな口が歪んでたろ?」
「ひどい〜、…でも、ちょっと似てたかなハハ」
「でしょ?似てたよね?」
佐々木は手のひらを太ももの下に敷き座っている。細く長い両足は地面に向けて延ばし、リラックスしている様子。
「何回か央吾君と写真撮りたいなって思って9組まで行った事あるんだよ?」
「えっ!?そうなの?」
「そうそう、でもさっきの女子たちと楽しそうに喋ってたから、声かけられなかったんだよ」
「え〜全然気付かなかった。声かけてくれたらよかったのに」
「それは無理だよぉ〜、あの中に割り込んでいけないでしょ〜」
央吾はぶどうの房の様に垂れ下がる藤の花を見上げ想像した。
「確かに、逆だったら俺も無理だわ」
「でしょ〜、無理だよぉ」
「だねぇ、ハハハハハ」
…、
…、
新人カップルに訪れた少々気まずくむず痒い沈黙を藤棚の甘く爽やかな香りが包み込んだ。




