第86話 case 4-小テスト
教室に笑い声が鳴り響いていたが、笑えない女子が数名いた。
さっきまでの体育館での出来事を一部始終見ていた央吾推し女子である。
「今から小テストやるぞぉ〜」
先生のその一言で、
「「「「えぇ〜」」」」
教室に鳴り響いていた笑い声は一瞬にして悲鳴に変わった。
「ヤベェ、小テストだってよ、オーゴ」
後ろの席からコタニが突っついて来た。
しかし、央吾の心の中は淡いピンクとオレンジのモヤで満たされており小テストの悪魔が入る隙間すら無かったのである。
「別にいいだろ、小テストぐらい」
「やけに余裕だな」
「まあな」
「勉強してきてんの?」
「んな訳ねぇだろ」
「何だ、諦めの方か…」
「あぁ…、今はどうでも良い…」
央吾は目を細め遠くを見つめている。
「悟りを開いたガチャピンみたいな顔になってるぞ」
「どんな顔だよっ、ガチャピンに表情はねぇだろ」
央吾は心の中どころか頭の中まで淡く優しいモヤで満たされていた。
もう一つ余裕な理由もあった。
隣の席の小嶋は央吾推し女子であり、いつもカンニングさせてくれていたのである。
小テストが始まると、いつもの様に小嶋の方をこっそり見る央吾であったが、小嶋は左腕で完全ガードの状態。
(あれ?…、…、…小嶋さんっ、小嶋さぁ〜ん)
央吾はいつもの様に目で合図を送るが小嶋は知らん顔。
(ん?…、…忘れてる?…、…とりあえず、自分でやって、埋めるだけ埋めるか…)
「残りぃ〜5ふ〜ん」
能天気にあくびをしながら発した先生からの制限時間が、生徒たちを焦らす。
(ヤバッ、あの左腕で全然見えない…)
すると、小嶋の左腕ガードが解かれた。
(ヨシッ、見えるっ)
央吾は視力2.0を活かし、顔の角度は答案用紙のまま、目玉だけを器用に動かし目を凝らす。
“モウミセナイ”
はっきりとそう書かれてあった。
思わず小嶋の顔を見ると、いたずらに成功したトムとジェリーの顔と美川憲一の物真似をしているコロッケの顔を、足して2で割った様な表情をしていた。
多大な悪意は無いものの、不適な笑みを浮かべながら左側の唇だけが歪んだいた。
(どういう表情?凄ぇ変顔してるけど…)
央吾は小嶋のその表情からは何も汲み取れ無かった。
「はい〜、終わりぃ〜、手ぇ止めろ〜、後ろの席から集めてぇ」
その先生のやる気の無さそうな号令により、後ろの席から順に小テストが前へ前へと送られていく。
小嶋は央吾へのメッセージを消し、前の席へと差し出した。
「何でだよ、小嶋さん」
「もう彼女が出来た央吾君には見せません」
小嶋の唇はまだ歪んでいる。器用に喋る。
「え〜、マジで〜」
「彼女に教えてもらったら?」
「宿題は?」
「彼女に教えてもらったら?」
「唐揚げは?」
「彼女にもらったら?」
不適な笑みは次第に高笑いするお嬢様の様に見えてきた。
「そこっ、喋るなぁ。授業始めるぞ」




