第85話 case 4-ガチャピン
体育館から急いで教室へ戻る時も、央吾と佐々木はたどたどしく手を繋ぎながら歩いていた。不慣れでぎこちないその2人の手は新鮮そのものだ。
「いつまで繋いでんだよぉ〜」
「おぉ、おぉ、おぉ、ラブラブたなぁ〜」
「ヒューヒューだよ」
「牧瀬里穂かよっ」
央吾の教室は1階(9組)で、佐々木の教室は3階(3組)である。
「じゃあ、次の休み時間3組行くから」
「うん、でも宿題大丈夫?」
「う〜ん、…大丈夫」
「その返事怪しいなぁハハ、宿題の教科は?」
「英語…?だったかな??」
「了解。じゃあ私が9組行くから」
「おいっ!いつまでイチャイチャしてんだよっ、先生来るぞ」
「何だよ、コタニ。別にイチャイチャはしてねぇだろ」
「私、行くね。休み時間待ってて」
「うん、じゃあまた後で」
佐々木は階段を軽やかに駆け上がって行った。
スカートの裾から見え隠れする日に焼けた太ももは女子特有の丸みを帯びながらも、筋肉質であり健康美の頂点であった。
「さすがテニス部、軽いなぁ」
央吾は階段の下から見惚れる様に佐々木を見上げていた。
「オーゴ、佐々木さんのスカートの中覗いてんじゃねぇよ」
「いや、覗いてねぇし」
そんなやり取りをしながらコタニと教室へ入った。
「しっかし、オーゴが一番乗りとはなぁ」
「何が?」
「野球部内で最初に彼女出来るのはヤスベだと思ってたから」
「だなぁ、自分でもビックリだよ」
央吾は同じクラスで席が後ろのコタニと話しながら、席に着いた。
「完全にフラれたと思ったけどなぁ」
「ハハハ、凄ぇ顔してたぞ」
「マジ?そんなヤバい顔してた?」
「あぁ、ガチャンピンみたいになってたわ」
「何でだよっ、あんな前歯出てねぇよ、顔色悪過ぎだろっ」
「いやいや、マジで、黄緑色になってたよ」
「だとしたら、すぐに助けろよ。保健室連れてけ」
「ハハハハハ、でも勝算はあっただろ?一緒に写真撮ったりしてたし」
「いやいや、あのユージローだぞ?告られたら心動くだろ」
「まあ確かにな、ユージローからすれば相手は丸顔の垂れ目だしな」
「それっ、ガチャピンじゃねぇかっ」
「ハッハッ、でもそのガチャピンが勝ったんだからいいじゃねぇか」
「まあ俺は何でも出来るからなハハ、野球にバスケ…」
「スキーにスキューバーダイビング」
「ガチャピンだなっ」
「もうすぐ体に黄色とピンクの縞模様が浮かび上がってくんじゃねぇ?」
「それはいよいよ完全体のガチャピンだなハハ」
「お〜い、静かにしろぉ〜、授業始まるぞぉ〜」
「起立、礼、着席」
椅子の足が床と擦れる不規則な連続音。
央吾はこの音が好きだった。
家では聞けないこの連続音は、ザ・学校という感じで落ち着くのである。
授業が始まっても央吾は教室の窓から見える体育館を見ながら、佐々木の事ばかり考えていた。
(佐々木さん、可愛いよなぁ…、身長結構高いよなぁ、165cmぐらいあるかなぁ、アキラより高いもんなぁ、それにしても…
「いい天気だなぁ」
「どこがいい天気だ高梨っ、小雨がぱらついてるぞ」
「ヤベッ、声出てた?」
「「「ハッハッハッ」」」
教室全体に笑いが起きた。
小雨が降り出した曇天でさえも晴天に見える程、央吾の気持ちは晴れやかであった。




