第83話 case 4-ユージローの言葉
央吾は完全ノープランとは言え、この状況で
「ちょっと待った!」
と叫んだからには一つの選択肢しかない。
当然、告白である。
(ヤバッ、勢いで言ってしまった…、まだそんなに喋った事もないのに…、しかも相手はモテモテ男のユージロー…、でも…、でも…、何となく、本当に何となく…、行ける気がする…、…、…
いや無理か…って言うか、もう行くしかない!)
「さ、さ、ささささ佐々木さん!」
「ハハハハハッ!ささささささきさんって誰だよっ、何回“さ”って言うんだよっ」
ナオトがまた突っ込んで来た。
どんな状況であろうとナオトはナオトである。
デリカシーの無さ過ぎるナオトの発言に対し冷ややかな視線が集まる。
央吾も眉間にシワを寄せナオトを睨んでいた。
「緊張は当然だっ、笑うんじゃないっ」
ユージローはナオトの方へ振り向く事なく真っ直ぐ前を向き言い放った。
ユージローが発する言葉は常に熱を帯びている。
その声はしっかりと空気を振動させ、体を突き抜けズドンッと心に響く。
「おうっ!悪ぃ」
それはナオトも例外ではなかった。
あのナオトが素直に謝った…それは野球部軍団にとっては衝撃である。何か言えば、絶対に言い返す。それがナオト。
全員が驚きのあまり目を見開いていた。
(そりゃモテるわ、こいつ)
央吾は素直にそう感じた。
(こいつがモテてるのは、顔が良いとか、背が高いとか、バスケが上手いからじゃない。この熱さにもってかれてんだなぁ。こりゃ勝てる気がしねぇ…、今の言葉で佐々木さんももってかれたかな…、そう言えばユージローと佐々木さんって同じクラスか…、じゃあ毎日の様にこんなユージローを見てんのか…、…、…、無理じゃん。撃沈確定…、…、…、って俺今、佐々木さんの名前呼んだだけでこのまま黙ってたら変な奴じゃん…。ちくしょ〜、フラれるの確定で告るのキツイなぁ…、人生初の告白がこれかぁ…。まあ、このままでは終われねぇしなぁ。しっかり告白して綺麗に散ろう。ヨシッ!)
央吾は意を決して佐々木の目をちゃんと見た。
子犬の様なクリクリの目は、急な告白に戸惑っているのか潤んだいた。
そのせいか、今までで一番可愛いく見えた。
「さ、佐々木さんっ!…お、俺は…、ユージローみたいに熱くはないけど、俺の方が好きです。俺と付き合って下さいっ!」
央吾もユージローも佐々木を見つめている。
…
…
少し間があり、オロオロしていた佐々木の目の焦点が定まった。決断した様だ。
央吾とユージローは身構えた。
佐々木からの答えを早く聞きたい様な、聞きたく無い様な…目を閉じそうになるのを開け、耳を塞ぎたくなるのを傾けた。
佐々木の口が動き出す。央吾にはスローモーションに見えた。
(“お”、央吾の“お”だっ!多分)
央吾は自分の名前を呼ばれると確信した。
「ご、ごめんなさい…」
(“ご”だったよ…しかも“ごめんなさい”って…やっぱ無理だったかぁ〜)
この時の央吾の顔は泣きたいのに笑おうとしている様な、絶妙な加減の表情であった。
口角は痙攣しながら上がり、眉毛と目はゆっくりと下がっていった。




