第6話 case 2-左手でサンドウィッチ
つい設定を忘れ返答したが、父親はお酒も進んでいるせいか混乱どころか非常に上機嫌だ。
「そうかっ、君もオックスフォードかぁ。アーサーはね、小さい頃から成績が良くてねぇ、特に物理と数学はいつも100点だったんだよ。なぁアメリア」
「そうですねぇ、賢かったですねぇ」
母親はスミスの方を見て笑いながら答えた。父親に話を合わせながらも楽しんでいるように見えたので、スミスも顔がほころんだ。
「アーサーは元気かね?勉強で忙しいのか最近はめっきり帰って来なくてね」
「アーサー君は元気にしてますよ、いつもご家族に会いたがっています」
「そうかそうか、元気なら良いんだ。アーサーは真面目過ぎる所があるからなぁ。集中するとご飯もろくに食べないんだよ。そんな時は、いつもアメリアがサンドウィッチを作ってやってたなぁ」
「右手のペンは置かずに、左手でサンドウィッチを食べてましたねぇ」
また母親は笑いながらスミスの方を見てきた。
「今でもランチは毎日サンドウィッチですよ」
「そうかそうか、ハハハハハハ」
父親の息子自慢の話を聞いていると、スミスは照れ臭くもあったが、とても嬉しかった。
特に今夜の父親はいつになく、饒舌であった。
「そう言えば、アーサーが気が合うと言っていた友人…う〜ん…誰だったか…」
父親はワイングラスを口元で止めたまま、視線だけを天井に向け、思い出そうとしている。
「スティーブンですか?」
「そうそうそうそうっ!スティーブンだっ、スティーブンっ、彼も元気か?」
名前を思い出したことにスッキリしたのか、父親はグラスのワインを一気に飲み干した。
「…ええ…、元気です…。彼は天才ですよ。ガリレオ・ガリレイの命日1月8日が彼の誕生日ですから、生まれ変わりですかねハハ」
「ガリレオの生まれ変わりかぁ〜、それは凄いなぁ〜ハハハハハハ」
楽しそうに笑う父親は、グラスにワインを注ぐとまた一気に飲み干した。
「アメリア、この子にワインを2本渡してやってくれ。1本はアーサーに、もう1本は君にだ。たまにはこれでも飲んで一息つきなさいと伝えてくれるか」
「分かりました、ありがとうございます」
「うんうん、今日は楽しかったよ、それじゃあまたいつでも来なさい。アメリアもコテージパイありがとう、美味しかったよ」
父親はそう言うと、寝室へと向かって行った。
スミスも母親も、父親の上機嫌ぶりに久しぶりに夕飯を楽しむ事が出来たのである。
翌日、父親は亡くなった…




