第67話 case 4-部活終わりのコンビニ
央吾は高校生になり相変わらず野球の日々を送っていた。
黒土にまみれ、白球を追いかけていた。
あの日の母の言葉から逃げるように…振り切るようように…これまでの出来事を頭から遠ざけた。
心が空っぽにならないよう、高校生活を謳歌するよう努めた。
青春へと突き進むしかなかった。
「高梨っ!ショートに入れ!」
「はいっ!」
フリーバッティングの練習の時、1年はボール拾いか、ピッチングマシンの球入れ係。
強豪ではないが、弱小でもないこの高校でもそれは鉄板だ。
央吾は陸上部がトレーニングしているライトで、
陸上部に打球が当たらない様、声出しをしながらボール拾いをしていたが、名前を呼ばれダッシュでショートまで。
フリーバッティングの時にも守備練習はもちろん出来る。
と言うか、ノックよりも生きた打球を取れるため、実践向きの練習とも言える。
ショートには3年生と2年生の先輩が1人ずつ。
その先輩の後ろに並んだ。
打球を処理する毎に順番を交代していく。
「調子にのってんじゃねぇぞ」
「すみませんっ!調子にのってないっす」
2年のケントさんは上手いけど足運びに余裕がない感じ。性格悪し。グローブはミズノプロ。
「まあ、いいじゃねぇか。なあ?」
3年のヒロさんは手首が柔らかくて捕球から投げるまで流れるような一連の動作。優しい。
グローブはザナックス。
「ありがとうございます!」
「央吾、上手いよなぁ。どっかから誘いなかったのか?」
「ヒロさん、買い被り過ぎっすよ。こんなやつにスカウト来る訳ないでしょ」
(来てたよ、PLから)
「いいえ、来てないっす」
PLから来てました、なんて言ったらケントさん何言い出すか分かったもんじゃない。
ようやく練習が終わり部室で着替えを始めた。
「今日の当番誰だっけ?」
「俺だよぉ、嫌だなぁ…」
タケシが面倒臭そうに項垂れている。
部室は学年毎に違うため、上級生の部室を1年生が当番制で掃除をする。
央吾は部室の掃除なんて何の苦も無かった。
じいちゃんのお尻拭くのに比べたら、朝飯前だ。
「誰か手伝ってくれよぉ」
「何でだよ」
「嫌だね」
「順番だろ」
「2週間に一回じゃねぇか」
皆んなそんなに嫌なのか…
「央吾は手伝ってくれるよな?な?」
「面倒臭ぇよ。コンビニで待ってるぞ」
一応、面倒臭いという事にしておこう。
練習帰りは直ぐに家には帰らない。
数人でコンビニに寄るのが通例だ。
メンバーは日によってバラバラだが、央吾は必ず立ち寄る事にしている。
部活帰りにコンビニで買い食いしてウダウダする時間が楽しかった。
野球の練習はしんどい…でも早く家に帰りたいかと言われればそうでもない…。
真っ黒の母との2人暮らしは想像以上に央吾の精神を追い詰めていた。
その一方で生活水準はかなり向上していた。
中学校までの食卓が嘘の様。高校生になる少し前、つまり父が死んでからは毎日の様に夕食には肉が出て来る。
母の収入はすこぶる安定している様だった。




