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人間体験  作者: hi07


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第66話 case 4-フリーザ

「野球道具いつ買いに行く?グローブとスパイク、バットもいる?練習着も新しくしないとね」


全然違う話。話変えて来た。

でもようやく買ってもらえる。しかもセットで。そう思うと嬉しかった。なぜか、この上がりに上がった気持ちを悟られたくなかった。すぐに欲しいが、考える振りをした。


「あぁ〜、いつでもいいけどぉ」


「そう、じゃあ来週でもいい?」


「いやぁ〜、まぁ、でもぉ、早く慣らしておいた方がいいかなぁ。特にグローブは」


「そう、じゃあ今日買いに行く?」


「え?じゃあ、そぉしよぉかなぁ〜」


何だこの喋り方…バカ丸出しだ…


「何でそんなバカみたいな喋り方なのよ」


同じ事思ってたよ…


「じゃあ、学校から帰って来たら買いに行きましょうか」


「あ、うん」


「ミヤガワスポーツでいいの?」


「いや、イグチの方が良いかなぁ。ミヤスポはローリングス置いてないから」


ミヤガワスポーツ、略してミヤスポだ。


ミヤスポはミズノをメインで取り扱っていた。

央吾の周りでは、ビューリーグやミズノプロが流行っていたが、央吾はローリングスがメジャーリーガーっぽくて大好きだった。

イグチ(スポーツ)にはそのローリングスが置いてある。


「へ〜、そう」


母は全く興味なさそうだ。


朝食を終えると学校に行く準備をする。

いつもとは違い、今日はルンルン気分だ。

さっきまでは恐怖を感じる程暗く曇っていた気持ちは何処へやら。

制服を着て、玄関へ。

靴を履いていると、母が玄関まで見送りにやって来た。


「いってらっしゃい」


珍しい。いや、こんな事は初めてか。


「うん、いってきます」


靴を履き終えた、央吾が振り返ると…


母と目が合った…


あれ?白目は?黒目しか見えない…

目だけ笑ってる…。


いや、目さえも笑ってない…冷たい目…


目尻はカッターナイフの様に鋭い…


「…央吾、あなたは安心していいわよ…」


…、…、…、…、


「…ぇ…?」


空気が一気に張り詰める…

強く細い針の様な糸で繋がったかの様に、母から目線を逸らす事が出来なかった。


薄い氷の上に立っている様に、身動きが出来ない。

これ…金縛り?


一瞬にして昨日の夜の、母の言葉を思い出す…

(階段にいたわよねぇ?)

(起きてるんでしょ?)

(全部話してあげる)

(安心しなさい)

夢じゃなかった…、やっぱり現実だったんだ…。


返す言葉が思いつかない…。

あの時の決心は母の目線に殺された。


「…、…、…、…、…、ぁ…、…、…」


なんとか喉の奥から絞り出した音だった。


…、…、…、…


「どうしたの?いってらっしゃい」


黒目だけだった爬虫類の様な目が急に人間に戻り、体温を感じた。

しっかりと優しい表情に戻った。


「…ぃ…って…きま…す」


呼吸が戻り、なんとか声が出た。


母は目線を外すと振り返り、リビングへと歩き出した。


央吾はそこでようやく金縛りが解け、動き出す事が出来た。


まるでフリーザに睨まれた下等生物だ。


戦闘力が違い過ぎる…

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