第65話 case 4-目線は合わない
央吾は止まった箸にも気付かず、固唾を呑んで母の言葉を待った。
…、…、…、
母は少し間をおき話し出した。
誰に話しかけてる?目線が合わない。
「正直に言うとね…、…、少しは献金に回すわよ。でも生活もしていかないといけないから…、生活費はある程度残しておくわ。お父さんいなくなって心配でしょうけど、お母さんもそれなりに収入あるから大丈夫よ」
違った。昨日の晩の話ではなかった。
言葉だけ鵜呑みにすれば、めちゃくちゃ安心だけど…まだ疑いは晴れない。
「…、うん、わかった…」
央吾は半信半疑のまま、返事をした。
母は段ボール会社の事務員。夜遅くまで働いている訳ではない。もちろん、掛け持ちで仕事をしている訳でもない。
「収入そんなにいいんだね」
思わず口をついてしまった。ハッとした。
「実を言うとね、仕事は辞めようかと思ってるの」
「え?今、大丈夫って言ったばっかじゃん」
「ええ、大丈夫よ。神教の布教活動とかもろもろでそれなりの収入になるの」
もろもろって…怖いな。どんな収入源だよ…。
母への疑いは晴れるどころか濃くなっていく。
目線を全然合わせないし…。
と言うか、黒は黒なんだが…どこまで関わっているのか…
決心していたはずだったのに、もう…質問する勇気がない…
目線を合わせられない。
入会した信者の献金額にもよるが、その内の数%が幹部の収入となる。また葬儀等に参列した際のお布施も同様である。
めぐみが神業入りした際に高梨家が支払っ1000万円の内、仲介役となった西中島は大金を手に入れていた。
現時点でも母親は毎月30〜40万円程度の収入を得ていた。
県支部の幹部である母親は信者の葬儀への参列を仕事のため断っている状況であり、仕事を辞める事で布教活動に要する時間も増え、お布施以外の収入も増加するという算段だ。
「それなりの収入なのかもしれないけど、仕事辞めるほどなの?」
「大丈夫よ。結構稼いでるんだから」
母は顎を少し上げ、得意気に笑っていた。
目線は合わせて来ない。
「仕事はしてた方がいいんじゃない?安定してるし」
「神教だけでもちゃんと安定してるわよ」
母はご飯を食べ終え、食器を片付けながら席を立った。
当然の様に目線は合わせない…。
「布教活動って言っても、そんなに入会する人いるの?」
「仕事を辞めたらね、その分、布教活動に使える時間が増えるから」
央吾からの矢継ぎ早の質問に少しだけ嫌気が差した様に、食器を洗いながら振り返る事もない。
「いつ辞めるの?」
「今月いっぱい。央吾の不安な気持ちも分かるけど、少しは母さんを信用しなさい」
呆れた様子であったが、振り返った。
目線が合う程ではなかったが…。




