第58話 case 4-焼鮭と目玉焼き
「央吾、起きなさい。ゴンギョウの時間よ」
恐ろしいほどいつもと一緒だ。
一瞬で目が覚めた。
父も母も普段通り。喋り方も表情も言葉数までも全てが何もかも今まで通り。ただ、央吾にとってはそれが逆に大きな違和感であった。
朝ご飯を見て驚いた。いや、恐怖を覚えた…
いつもの白ご飯とみそ汁とたくあんに加え、焼鮭に目玉焼きまで。
「昨日の今日で肉は準備出来なかったけど」
「うん、いただきまぁす」
動揺を隠す様に央吾は朝食をいつも通り食べ出した。
焼魚や卵は高梨家では週に一度出てくるかどうか。
それが2つ同時に出てくるなんて…ありえない…
央吾は姉が神業に入る前の事を思い出していた。
明らかに家族の中で1人だけ優遇されていたことを…でも今の食卓は違っていた。
央吾だけに焼鮭があるわけでは無く、3人分準備されていた。
少しだけ安心したが、完全に疑いが晴れてはいない。警戒しておこう…ピッコロ大魔王に。
「晩ご飯、何食べたい?」
「え?」
生まれて初めて聞いたセリフだった。テレビなんかではたまに聞くセリフ。本当に言う事があるんだ。
央吾が幼少の頃から“世界の始まり神教”に入会していたため、献金のために節約の日々。
ちゃんとした肉料理なんてものは給食でしか食べた事がなかった。
央吾は母からの質問に答えられなかった。
それは驚いたからだけではなく、どんな選択肢があるのかが分からなかったからだ。
今まで考えた事すらなかった…家でのご飯に期待した事がなかった…今日の夕飯は何かな?この考えは央吾の発想の外だ。
涙が出てきた…選択肢があるから?好きな物が食べられるから?…違う…自分の好きな食べ物すら分からない、こんな自分自身とこの環境に対しての怒りや失意からだった。
「何で泣いてるのよ。何か肉料理で良い?」
「…、うん…」
子供の涙の意味にすら興味の無いピッコロ大魔王め…
怒りをかき消す様に久々の焼鮭と目玉焼きを口の中にかき込んだ。
それからは、週の内半分ぐらいはしっかりとしたおかずが食卓に並べられるようになった。
そんな日々が続いていたが、最近やたらと母のご機嫌が麗しい。
そして、おかずの量や頻度も徐々に増加傾向である。それに比例して白米の量もどんどん増えた。
それは央吾にとっては有り難く、喜ばしかった。母の機嫌はまあ置いといて。
というか、どうでも良い。
はじめは姉の事もあり、警戒していたが今となっては当たり前の様な食卓であった。
央吾の体も待ってましたと言わんばかりに栄養をどんどん吸収し、中3の3学期には175cm、70Kgと一気に野球部らしい体格となった。
央吾が中学卒業を間近に控えたある日。
父が死んだ…




