第56話 case 4-祖父のお酒
葬儀の次の日、父と母が何やら言い争っている。
「おい、生命保険と香典はどうなってんだ?」
「献金に回すに決まってるでしょ」
「全額か?」
「そうよ、当たり前じゃない」
数年前に比べて最近喧嘩が多い。
央吾は我関せず…内職の手を止めない。
「少しぐらい生活費に回せないのか?」
「やめてよ央吾の前で」
「体を作るには、今が大事な時期だ。いや、むしろ遅いぐらいだ」
「十分大きくなってるじゃない」
央吾は中3で身長170cm、体重62kg。
標準中の標準体型だが、野球部の中では細い部類に入る。
「しっかり食べさせてやらないと」
俺も肉食いてぇよ、って言いたいけど言うと面倒くさくなりそうだから止めとこ。
「分かったわよ、考えるわ。だからもうこの話は終わり」
「ちっ」
父親は納得がいかないのか、舌打ちをした。
「何よっ、舌打ちする事ないでしょ」
「ちっ」
父親はもう話す気もないかの様に母親の方すら向かない。
大喧嘩の予感…
央吾は内職を終え、静かに2階に上がろうとした。リビングを出る前に一応小さい声で「おやすみぃ」とは言ってみたが、2人からは何の返答も無かった。ピリピリしてるわぁ〜
「酒買ってたの、もしかしてお前か?」
どう言う事だ?階段を上がっていた央吾にも聞こえて来た。何となく気になった央吾は階段に座り静かに聞き耳を立てた。
「さっき、じいさんの部屋の片付けしてたらタンスから空の一升瓶が何本も出て来たぞ」
「さあ、何の事?」
「じいさんが、あんなに何本も買える金持ってる訳ないだろ」
「…」
「どれだけ隠しても新しい酒持ってるから、おかしいと思ったんだ」
え?あれだけ飲むな飲むなって言いながら、母さんが買ってた?
確かに父さんの言う通りだ…、いつも飲んでるのに、一升瓶の中身はたくさん入ってた…
何のため…?悪くなる一方だろ…、…、…、
あれ…?
悪くしたかった…?
「どうなんだ?」
「しょうがないでしょ、飲みたいって言うんだから。好きなもの我慢して死ぬより、たくさん飲めたんだから本望でしょ」
「何だその言い草はっ!」
ガシャ!!
父が切れた。コップでも投げたか?
「危ないわねっ!物投げないでよ!」
「うるせぇ、このヤロー!何でも自分の思い通りにしやがって」
「大きい声出さないでよ、央吾が起きるでしょ」
まだ起きてるよ。ってか、全部聞いてるよ。
これまでも散々やってる喧嘩、俺が気付いていないとでも思ってるのか。
それよりも…母が酒を渡していた。
じいちゃんはボケてた。
いつも水の様に飲んでた。
体を悪くされているとも知らずに…




